BIKEPACKING DIARY in Alaska Vol.05:僻地の洗礼

ちょっといい自転車を手に入れてから、どっぷりと自転車にハマってしまった編集者が、北海道やニュージーランドへの一人旅を経て、次なる地へと旅立った。漕いで、撮って、書いて、を繰り返した42日間のバイクパッキング。これは、大自然アラスカの中でペダルを漕ぎ続けた冒険女子の記録である。

photo & text: Satomi Yamada

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Day 11
2023.08.27 sun.
Nelchina - Tolsona

なにかおかしい。キャンプ場を出て30分ほど経って、嫌な感じがした。路肩に寄せて自転車を見ると、リアタイヤの空気が抜けている。パンクだ。アンカレッジから走り始めて、これでもう3回目。こんな頻繁にパンクするとは想定外だった。

さっき出発したばかりなのに……。30kgはあろう荷物を積んだり降ろしたりするのは、時間も労力もかかる。通常は1時間漕げば15kmほど進む。修理に30分かかれば7〜8km、手間取って1時間かかれば15km程度の遅れが出る。ロスタイムが積み重なると、進める距離がどんどん減っていく。

でも、今日は出発したばかりで、時間も体力もまだたっぷりあるし。と、悲観したくなる気持ちをグッと堪える。大自然を旅する以上、思い通りにいかないことはたびたび起こる。そんな局面で、ネガティブな感情はなんの役にも立たない。

アラスカで自転車がパンク
パンクをしたら、車通りのない場所へ移動して修理をする。

瞬時に気持ちを切り替えて、パンクの原因を探る。なにやら硬くて細長いものがタイヤに刺さっていた。植物の棘のようにも見えるけれど、人工物だろうか。

予備のチューブはもう使い果たしていた。パンク修理キットを使うしかない。それだとあくまでも応急処置にしかならないから、一刻も早くチューブを手に入れなくては。

お昼ごろ、一軒のグローサリーストアに着いた。店内に入って商品を見てまわる。ランタンやウォータータンクなど、アウトドアグッズが置かれた小さなコーナーがあった。さらに奥にはスノーモービル用品もある。これはもしかすると……と抱いた期待も虚しく、自転車用品は見当たらなかった。

こんな僻地に自転車で来る人などいないだろうから、当たり前だ。頭ではわかっていながらも、店内を何周もしてしまった。

アラスカ グロサリーストアの人
2〜3日分の食料として、パスタ、ミネストローネ、ポテトスープ、マッケンチーズ、アップルジュース、水を購入。

今日、立ち寄れるお店はこの一軒のみ。必要な食料品と日用品を購入しようと、品物を持ってレジへ向かう。カウンターの向こう側にいた男性は脚が悪いようで、杖を片手にゆっくりと立ち上がって言った。

「目と耳が悪いから、金額を計算するのに少し時間をもらえるか」

もちろん構わないと伝えた。お会計を待つあいだ、なんとなしに店内を見まわす。左の商品棚に並んでいる3つのキャップに目が留まった。それぞれ「TRUMP 2020」「U.S. VETERAN」「JESUS IS MY BOSS」と刺繍されていた。

アラスカは共和党が強い州だ。1960年から2020年までの大統領選挙で、民主党の候補者が勝ったのはわずか1回。トランプ氏は、出馬した2回ともアラスカ州で勝利している。ここの店主も、トランプ支持者なのだろうか。

トランプ政権のハット帽
お店の外には、「TRUMP」と大きく書かれたのぼりが立っていた。

買い物を終え、店先に置かれたテーブルでお昼を食べた。お会計をしてくれた男性も出てきて、入口脇のベンチに腰掛けた。

「どこへ向かうんだ?この先はグレンナレンまでなにもないから、必要なら水を汲んでいくといい」

と、声をかけてくれた。ありがとう、と答えて、このあたりの出身なのか聞いてみた。すると、彼はアラスカに派遣された元軍人だという。退役してからは、ここでこのグローサリーストアを経営しながら暮らしている。

昼食を終えて、お店をあとにする。今日の目的地まであと50km。パンクしないで着けるよう、祈りながら走った。

ノースフェイスのテント
この日に宿泊したのは「Ranch House Lodge & RV Camping」。私営キャンプ場のため、水洗トイレ、シャワー、電力、レストランなどの設備が充実している。

なんとかキャンプ場へ到着し、チェックインをする。その際、受付の男性にひとつ相談をした。自転車のチューブを買えるお店が見つからないから、この場所宛てにAmazonで注文をしたかった。

それは構わないけれど、このあたりは番地が存在しないから、20km先にある最寄りの郵便局留めにするしかないと男性はいう。しかも、到着までに1週間はかかると言われた。

配送日程を調べると、このエリアへは最短で2日後に届くと書いてある。しかし、実際に注文をすると「遅延」をたびたび繰り返す。そして結局は1週間かかるというのだ。そして、彼は言った。

“You know what? This is Alaska.”

そうか、これがアラスカか。自分の準備不足と認識の甘さを悔やむしかなかった。

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