いい自転車とは?サイクル・フリーク座談会

自転車って、どうやって選べばいいのだろう。ギアのないシングルスピードは不便だし、クロモリフレームは重たい。それでも乗りたいと思うのは、めちゃくちゃカッコいいからってこと?その答えを知りたくて、サイクル・フリーク3人を招請。好きなスタイルについて語ってもらった。

Photo: Kazuharu Igarashi / Text: Satomi Yamada

自転車が好き。といっても、その嗜好は千差万別。ヴィンテージの稀少な一台、山道をタフに走るオフロード車、多機能なエブリデイバイク。好みが異なる3人(左から松本和也さん、金子恵治さん、長岡亮介さん)に、今所有する自転車について、聞いてみた。

松本和也

僕がメインで乗ってるのは、サンフランシスコの〈RIVENDELL BICYCLE WORKS〉っていうツーリングバイクのモデル違いで。毎日乗る用はシングルスピードにフェンダー(*1)を付けたもの。もう一台はちょっと非現実を味わうようなマウンテンっぽいバイク。

僕、ドロップハンドルが苦手で、ゆったり系のハンドルを付けてるので、一見ママチャリみたいだから駐輪場ですごく馴染みます(笑)。

RIVENDELL BICYCLE WORKS/Quickbeam
RIVENDELL BICYCLE WORKS/Quickbeam
シングルスピードのパナソニック製モデル。雨でも夜でも疲れていても乗れるように、フルフェンダーと、ダイナモライトを装備。

長岡亮介

ドロップもありますね。

松本

そうなんですよ。これは、テキサスの〈TOMII CYCLES〉っていうブランドで。ドロップにしてみたら、やっぱりあんまり乗らなくなっちゃいました。

TOMII CYCLES/Canvas
TOMII CYCLES/Canvas
テキサスを拠点とする、日本人ビルダーのブランド。コンセプトは“All Day Road”。一日中気持ち良く走れるロードバイク。

長岡

どれもアメ車なんですね。

松本

どうにもアメリカの自転車が好きなんですよね。ちょっと小ダサいというか、素朴でカッコつけずに乗れる感じが好きです。

金子恵治

ちょっと小さいキャリア付けたりして。

松本

Sportif Racer(*2)みたいに、カッコいい自転車に乗る自分を想像したんですけど、ギャップがありました(笑)。

金子

似合いそうなのに(笑)。

松本

もう一台は、〈MASH〉のピスト。これもアメリカで、ピストバイクブームの火つけ役みたいな人たちのブランドなんですけど。

MASH/Steel
MASH/Steel
かつて、フリースタイルのピストに乗っていた流れで組んだ、シングルの一台。マルチポジションが取れるハンドルがユニーク。

長岡

そうだよね、ピストブームっていうのがありましたよね。

松本

ギアがなくてもいろんな場所に行けるし、踏むだけだから純粋に自転車が楽しめるっていう。

長岡

頭の使い方が違いますよね。

松本

シンプルになりますよね。ギアを使うと、自分怠けてるなって思う瞬間ありません?(笑)

金子

むちゃくちゃあります(笑)。どんどんギア軽くして。

長岡

最後はシャカシャカになる(笑)。

金子

ほかは〈BROMPTON〉?

松本

はい、小径車ですね。〈ALEX MOULTON〉が欲しかったんですけど、まず初めてのミニベロに乗ってみるっていう。

長岡

入門編としてね。

松本

小径車が一番速いかもしれません。ギアが重くてロードバイクみたいに乗れるんで、平然と周りの人を抜いていけるスピード感にギャップがあって面白い。

長岡

〈BROMPTON〉はいい自転車ですよね。どっかのメーカーが小径車を作ってみたっていう感じじゃなくて、こだわりがすごい。

BROMPTON/M6R
BROMPTON/M6R
ロードバイク並みに走れる、6段変速モデル。簡単に折り畳めるので、輪行して出かけ先や旅行先で乗るのにもちょうどいい。

松本

そうですよね。イギリスで、手作業で溶接、ホイールを組み、出荷まで一括してやってて。工場に行ったら、ビルダーさんが隠しサインみたいなのを入れてたんですよ。イニシャルとか、線を何本か入れたりとかして。それを見分けて、どのビルダーさんが作ったかを想像するんです。

長岡

すごいアナログですね。

金子

ロンドンに行くと、街中〈BROMPTON〉だらけですよね。

長岡

通勤ね。あれ憧れちゃうな。僕が乗ってるのは、〈ALEX MOULTON〉が2台と〈LITESPEED〉と〈KLEIN〉。

LITESPEED/Blade
LITESPEED/Blade
チタンフレームのハンドメイド製作がメインのブランド。ホイールはカーボン、ほかのパーツはアルミでまとめた軽量車。

金子

どう乗り分けてるんですか?

長岡

街乗りしかしないので、まぁ、気分。全然どれでもいいっていうか。

松本

どれもめちゃくちゃカッコいいですね。

君も、お城に行かないか?
自転車に魅せられる理由

長岡

“自転車”が好きなんですよね、乗るより。乗りますけど(笑)。ずっと好きだけど、乗ってなかった時期があって。で、ある日〈ALEX MOULTON〉に出会うんです。イギリスに半年いた時知り合った人が乗ってて、「お城(*3)行くから、君も行くか?」って誘われて。

松本

「お城行くか?」ってセリフやばいですね!(笑)

長岡

それにまずグッときてしまって。帰ってきてから買って、アホみたいに乗ってました。Zepp Tokyoまで行って、疲れてうまく演奏できない、みたいな(笑)。

松本

最初に自転車に乗られるきっかけは、マウンテンバイクからだったんですか?

長岡

僕、もろ90年代マウンテンバイク育ちで。

金子

〈KLEIN〉も当時から?

KLEIN/Attitude
KLEIN/Attitude
90年代に作られた、アメリカ製ハンドメイドMTB。TREKが買収する前のこのモデルは「OLD KLEIN」と呼ばれ、稀少性が高い。

長岡

これは数年前にフレームだけ買って。〈ARAYA〉(*4)のマウンテンに乗ってたんですけど、そのパーツを移植して。時代考証もぴったりだし。憧れだったんですよ。小中学生くらいから。子供だと買えないじゃないですか。

金子

そうっすね。

長岡

90年代の自転車は何台でも欲しいです。〈KESTREL〉(*5)とか。

サイクル・フリーク3人
(左)松本和也、(中)金子恵治、(右)長岡亮介

松本

今なら見つけやすそうですよね。インターネットがあるから、世界中のヴィンテージフレームが。

長岡

そこらへんのヴィンテージは、値段が高くなってきてます。

松本

PINERGY(*6)率が高いですね。合計3本も。

長岡

SPINERGYやHED(*7)のディープリム(*8)にも子供の頃から憧れてましたから、そりゃ装着率は高いですよ。こうして見るとマウンテンバイクのエッセンスを足すのが好きみたいです、僕は。
〈ALEX MOULTON〉もそうだし。金子さんは、マウンテンバイクも乗られるんですか?

金子

僕も乗ってます。スタートはやっぱそっち系でした。

長岡

金子さんは、シクロクロス(*9)とかロードとか、走り系ですよね。

金子

はい。最近作ったのは、Above Bike Store(*10)の〈SVECLUCK〉。シングルスピードのクロモリです。

長岡

オーダー?

金子

オーダーです。シクロクロスをやってて、競技で走れるように。シングルでレースを走るのが好きで、そのために組んだバイクなんです。

長岡

タイムっていうよりは、乗ってる時の味わいっていうか。

金子

そうですね。もう一台のマウンテンバイクは、ギアは付いてるんですけど、リジッドフォーク(*11)で作ってます。

長岡

これ、フェンダー付いてるんですか?

金子

それも競技のためです。王滝っていう、山の中を100㎞走るレースがあって。ダート(*12)や坂道で砂利が巻き上がってくるんで、それを防ぐために。

長岡

どこのメーカーですか?

金子

SALSA CYCLES〉です。そんなに古くないけどリジッドで。速くは走りたいくせに、わざとそういう自転車を作ってて(笑)。

SALSA CYCLES/El Mariachi
SALSA CYCLES/El Mariachi
元祖アドベンチャーバイクブランドとして、アウトドア向け自転車が有名。こちらは、マウンテンバイクのレース用に組んだ一台。

長岡

いいですね。僕もやっぱりリジッドが好きだなぁ。自分がハマった頃は、最初の〈ROCKSHOX〉(*13)が出たくらいなんですよ。それまでみんなリジッドだったけど、サスペンション(*14)が出てからどんどん進化して、今や20㎝くらいバネが動くから、誰でも速く走れんじゃないか、みたいな。

金子

サスペンションを付けないで山の中を走るって楽しいですよね。

長岡

フィジカル勝負というかね。

金子

ドMなんです(笑)。

長岡

要はそういうこと(笑)。でも自転車としては正しいというか。

金子

今乗ってるロードバイクは、人から譲り受けた〈ANCHOR〉。青に塗って、わざとエイジングしてあるんです。ところどころ擦り切れてるように、最初からボロボロっぽく色づけをしたもので。

ANCHOR/RFX8
ANCHOR/RFX8
トレーニングや山を走る時にも乗っている、ロードバイク。クランク、ブレーキは〈SHIMANO〉のDURA-ACEをチョイス。

長岡

速いんだろうな、こういうの。

金子

速いです。ちょっと古いやつなんですけど、カーボンで。

松本

みんなタイプがわかりやすいですね。自転車を見ればどういう乗り方をしてるかが出ますね。

金子

こんなにはっきり出る3人っていうのもなかなか(笑)。

必要最低限に削ぎ落とし
最新の機能を装備する

長岡

今のロードバイクって電動のディレイラー(*15)で、ディスクブレーキ(*16)で、タイヤも太いじゃないですか。そういうのも欲しいな。速いやつ。それをダラッとした格好で乗りたい。

松本

たしかに、それカッコいい。へたしたらサンダルとかで。

長岡

〈BMC〉(*17)の青いモデルがあって、それがすごいカッコよかったんで、そういうのも乗ってみたい。

(*17)BMC
スイスに拠点を置く、自転車ブランド。1986年、イギリスの自転車ブランド〈RALEIGH〉の販売代理店として設立。94年から自社ブランドの製造を開始。

金子

僕はクラシックな感じが好きなんだけど、でも走りを考えて現行規格っていうのがやっぱり欲しいんです。

長岡

クラシックなんだけど、ディスクブレーキが付いてて快適に乗れる、みたいな。

金子

CRUST BIKES〉の感じって、かつて日本人が憧れた外国の自転車みたいですよね。フォルムの作り方が、いわゆるロードレーサーとは全然違う組み方で。

CRUST BIKES/Bombora
CRUST BIKES/Bombora
クラシックと最新規格を掛け合わせた、独自の世界観を持つ自転車。フレーム¥138,000(ブルーラグ代々木公園店)

長岡

見てるところがさすがです。

金子

実は今、新たに自転車を作ろうと考え中で。ダートも走れるけど普通にも速いみたいな、万能な自転車って増えてきてるから、逆にソリッドに削ぎ落とされたものが、もしかしたらいいのかもって考えてます。そういう美しさってあるじゃないですか。

長岡

そうですね、シンプルな機能美もいいですよね。

金子

走る場所もいい加減決まってるんで、その必要最低限でいい。そうすると、必然的に美しい自転車ができるのかなって。

自転車が欲しい
その理由ってなに?

松本

自分にとって必要なものっていいですよ。よく「汎用性」っていうんですけど、初めて自転車を買う人は、絶対その自転車が100点満点にならないんです、結果的には。乗ってみるとキャリアが付いたらいいなとか、雨の日はフェンダーがいるなとか出てくるんです。

だから、初めて乗る人は、始めから過剰に機能が付いた自転車じゃなくて、それが準備できている受け皿の大きいフレームを選ぶといいはずで。

長岡

拡張性があるっていう感じかな。

金子

自転車を買う時って、通勤で使いたいとか、なにか行動の目的があるか、自転車そのものに魅力を感じてカッコいいから欲しいか、そのどちらかですよね。それによって選び方が変わってくる。

今は用途によって対応できるパーツがすごく増えたから、目的がある場合の自転車選びは、お店で相談すればその答えを出すことは比較的簡単になってるんじゃないかなって思います。

松本

そうですね。〈SURLY〉っていう、どんな年齢でも、どんな身長でも、どんな感覚でも自転車を選べるブランドがあるんで、よくおすすめしています。結果的に長く、10年以上使っている方もいて。エントリーにも、最終ゴールにもなるような自転車です。

SURLY/Straggler
SURLY/Straggler
組み方次第であらゆる乗り方ができる、オールマイティさが魅力。フレーム¥80,000(ブルーラグ代々木公園店/TEL:03-6416-8532)

長岡

僕は、カッコいいと思うものに乗るのが一番だと思うんです。

金子

それが一番高揚感があって、心地いいです。

長岡

大事に乗るっていう気持ち。そういうことに貪欲になってほしいです。

松本

見た目は重要ですよね。

長岡

ね。見た目が良ければだいたいいいですよ。あと、空気入れは買ってほしいですね。絶対に。空気を入れたら超快適じゃないですか。

松本

おっしゃる通りです(笑)。

長岡

ゲージ付きのね。

金子

ベコベコのタイヤで走ってる人いますもんね(笑)。

長岡

それで自転車ダルいって思ってる人がいたらもったいない。「空気入れを買いましょう」。それを言いたい。今日は、それが言えればいいや(笑)。