自転車でキャンプに行こう。バイクパッキングからライディング&キャンプまで

自転車でキャンプに行く。そう聞くと、ごく一部の強者の楽しみと思われがちだが、今はそんなことはない。道具の軽量化が進んだ今、機動的で積載能力が高い自転車で、キャンプに行こう。

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Photo: Keisuke Fukamizu / Edit&text: Keiichiro Miyata

自転車トリップ歴20年、週2回は山へ出かける北澤肯さんは、「大がかりなキャリア(バッグを乗せるラック)を自転車に装備するオールドスタイルの時代から、バッグシステムは格段に進化しています」と話す。

特に、ここ5〜6年で、フレームに直付けできる軽量なバッグシステム開発が進み、機動力は格段に向上。キャンプ道具のライトウェイト化も後押しとなり、今では性別・年齢問わず、気軽に楽しめるようになった。
車両が入っていけないようなラフな山道をスイスイ進み、自らの足で登るハイキングよりも機動的で積載能力が高い。キャンプと自転車。実際に挑戦してみると、これが思った以上に相性がいい。

鵜飼洋 宮田浩介 北澤肯
キャンプに行った人/写真右から、鵜飼洋(福祉機器設計会社勤務)、宮田浩介(大学講師)、北澤肯(オルタナティブ バイシクルズ主宰)。

基本装備となるのが、3つのバッグ。三角形になったフレームの枠内に取り付けるフレームバッグ、シートの下に装着するサドルバッグ、フロントのハンドルバッグだ。

鵜飼洋さんいわく、「キャンプ道具やテントのポールなど重いものはフレームバッグに入れて低重心にすると走行が安定する」と、奥が深い。どこに何を入れるかのパッキング術にも、自転車が持つ性能を損なわないためのコツがあるのだ。実際、奥多摩へキャンプに出かけた3人の装備を参考に、まずはバイクパッキングの基本を知っておこう。

基本:バイクパッキング

砂利道でハンドルが取られないように安定感のある重量配分まで考慮された、現代のバイシクル用バッグ。宿泊数に合わせて用量は異なるが、初級編として3人の1泊2日キャンプの装備を拝見。

鵜飼洋の装備

最低限の装備で
機動力重視!

バイクパッキングギアに特化したイギリスのガレージブランド〈アピデュラ〉の軽量バッグで統一。ダンシング(サドルから腰を浮かしてバイクを左右に振ってペダルをこぐ走法)でバランスを崩さないようにSaddle Bagには、軽量でかさばる、寝具、テント、衣類を収納。重たい空気入れや工具はFrame Bag内。

テントポールはフレームに巻き付けた安定感のある理想的なバランス。できるだけ身軽な装備で移動時のストレスを軽減し、ライディングに集中するのが、鵜飼さんの心得。

【Item List】
Handle Bar Bag:モンベルの輪行袋。
Saddle Bag:ウィンドパーカ、テント《U.L.ドームシェルター》、スリーピングマットはすべてモンベル、シートゥサミットのサーモライトリアクター、マグカップ、クッカーとアルコールバーナーは共にエバニュー、ヘッドライト。
Frame Bag:工具、空気入れ、スペアチューブ、チェーンコマ、クイックパッチ、アルコール燃料、食品類。

宮田浩介の装備

あえてオールドスタイルを貫く

フロントラックを装備した1980年代の車体に合わせてオールドテイストのバッグをチョイス。道中でアクセスしやすいStem Bagには飲み物と行動食。緊急時に自転車を離れる状況も想定し、山での必需品をFront Basket内のバックパックにまとめている。キャンプ道具はFork Bag、工具などの重量物はFrame Bag内に。

【Item List】
Front Basket:モンベルの軽量ダウンジャケット、モンテインのレインパーカ、モンベルのレインショーツ、モンベルのクラッシャブルランタンシェード、マムートのヘッドランプ、サーマレストのエアマット、着替え(肌着)、インスタント食品、救急用品や歯ブラシ等、エマージェンシーシート、モバイルバッテリー類、輪行袋。
Stem Bag:ドリンクボトル、行動食。
Fork Bag:バンドックのダブルウォールテント、モンベルの座布団、調理器具、カップ、カトラリー、着火具。
Frame Bag:テントのポール・ペグ・ガイライン、携帯工具、空気入れ、スペアチューブ、エタノール。

北澤肯の装備

多少重くなっても
“遊び”の備えも忘れない

積載量は計15ℓ。最も重装備な北澤さんだが、その約3割が食品類。仲間との団欒を楽しむためにバーボンやおつまみも準備。走行時に荷物が動いて重心が左右に振られないように、バッグはすべてジャストサイズ。

【Item List】
Handle Bar Bag:着替え(靴下、パンツ、Tシャツ、長袖シャツ)、ローカスギアの寝袋型テントとペグ、グランドシート、ブルックスレンジのタープ。
Accessories Bag:ペツルのヘッドライト、ナイフ、シートゥサミットの蚊帳(顔用)、手ぬぐい、日焼け止め、ポイズンリムーバー、絆創膏、テーピング、エナジーバー、エナジージェル、バーボンとおつまみ。
Top Tube Bag:工具、虫除けスプレー。
Frame Bag:シートゥサミットの蚊帳、スリーピングマット、レインパンツ、スペアチューブ、サバ缶。
Saddle Bag:スノーピークのチタンマグ×2、固形燃料と五徳、カトラリー、食品類、スターバックスのインスタントコーヒー。

豊かな自然が残る奥多摩のキャンプ場が拠点
JR武蔵五日市駅から自転車で4時間。豊かな自然が残る奥多摩のキャンプ場が拠点。テントの設営を終え、ここまでの道のりを振り返る。

実践:ライディング&キャンプ

登山とは異なり、自転車という道具を使い挑むため、そのメンテナンスは最重要。事前にコース状況を把握し、安全に走行するために最適な装備を組むことが、自転車キャンプを楽しむうえで欠かせない。

拠点とするキャンプ地の最寄りまで、クルマや電車(輪行)を利用するのが、一般的な自転車キャンプの楽しみ方。JR武蔵五日市駅に集合し、奥多摩のキャンプ場を目指すこの日は、3人揃ってグラベルバイクをチョイス。未舗装のダートと舗装路の両方を走破するうえで最適な自転車だという。

その装備は、ドロップハンドルが付いた、軽量なフレームに少し太めのタイヤ(幅32〜42㎜)を履くのが、王道のスタイル。舗装路ばかりのロングライドならスピード重視のロードバイク、積載量が多くダート中心ならマウンテンバイク、また雪道なら極太タイヤのファットバイク、とコースに合わせて自転車や装備を使い分ける。

複数行動をする際は、特に息を合わせた走行ペースが大切になるため、事前に互いの自転車の仕様を確認しておくという。また、クルーに女性や子供がいる場合は、e-Bikeを選んでもらうのがベスト。電動アシスト機能が、成人男性との体力差を、ちょうど埋めてくれる。

駅から舗装路を走り約2時間で林道に入る。ここからは操作に自信のある人から隊列を成し、十分な車間距離をとって進んでいく。「路面を見ると、苔の付いた大きな石が剥き出しになっています。晴れた日でも木陰は湿っている状況のため、落車や滑落に気をつけて、自分のペースを崩さずに進むことが重要です」と北澤さん。

ドリンクや行動食を補給
開けた林道で休憩。先のラフな山道に向けて、ドリンクや行動食を補給。

下りは、前傾姿勢でスピードに乗りながらも、ブレーキに指を掛けて速度を調整。上りは体を起こし、ペダルに力を伝える。休憩を挟みながら林道を抜けていったが、その途中で、北澤さんの前輪がパンクするアクシデントが……。
ただ、そんな状況にも「よくあることです」と涼しい表情の3人。

「自分である程度の応急処置ができないと、ただの鉄くずになってしまいます。無事に帰宅してこそ、楽しいキャンプ!それは心得てほしい」と口を揃える。いったん停車し、スペアチューブと工具を取り出し、修理。「トラブルに備えて、これらを常備しておくのも自転車キャンプでは大切です」と鵜飼さん。

そして、ものの5分ほどで復旧。時々倒木に遭遇することもあり、その時は自転車を肩に担ぎ越えていくという。まさに、複合的な能力が必要となる。林道を走り始めて約2時間後、寝床となる広く開けたキャンプ場に到着。
そして、日が暮れる前にテントを設営。それぞれ装備したバッグを広げていくが、北澤さんの荷物にだけテントの支柱となるポールが入っていない。そして、おもむろに自転車の前輪を外し、タープを張ると簡易テントが完成した。


「暖かい季節は、蚊帳も併用して、いつもこのスタイルで一夜を明かします」というのが、北澤さん流。これも装備を減らし、走行中の機動性を高める上級者の知恵。自転車で臨むと、キャンプの仕方にも独自の楽しみ方がある。