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〈nonnative〉デザイナー・藤井隆行の人生最高のお買いもの「河井寬次郎書の掛け軸」

人が欲しいと思うものには、その人の価値観や人生観が表れます。何を思い切って手に入れ、何を大切にしてきたか。“お買いもの”とは究極の消費行動であると同時に、自分の人生を彩るために何が必要なのかを教えてくれるものです。〈nonnative〉デザイナー・藤井隆行さんのベストバイ・ストーリーは?

photo: Naoki Honjo / text: Takuro Watanabe

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それまで知らなかった書の世界に意識を向けるきっかけに

自宅の和室に掛け軸を飾ろうと考えた時に鎌倉の〈瀧屋美術〉で出会ったのがこの掛け軸。一目惚れでした。2021年のことです。

河井寬次郎の作品はずっと好きなのですが、京都の〈河井寬次郎記念館〉に行った際、〈UNDERCOVER〉の高橋盾さんに学芸員の方をご紹介いただいたのもその頃で、シャルロット・ペリアンが寬次郎を訪ねてきた時のエピソードなど、貴重なお話をたくさん聞かせていただき感銘を受けました。

自宅にもペリアンの家具を置いているので、寬次郎の書とは相性がいいだろうと思いました。この掛け軸は字と言葉がとてもいいんです。「粧行安来」と書いてあります。「行粧」は飾り立てた外出の装いのことで、それを逆さにしているのでしょう。安来は寬次郎の生まれ故郷、島根県安来市を指します。

この書を残した1957(昭和32)年は寬次郎がミラノ・トリエンナーレでグランプリを受賞した年。どうやら寬次郎はミラノでの滞在が嫌だったらしいのです。きらびやかな場所よりも早く故郷の安来に帰りたい、という思いも込められているんでしょうね。

書には絵画とはまた違った奥深さがあります。僕にとって初めて書と掛け軸の世界に意識を向けるきっかけになったものです。

〈nonnative〉デザイナー・藤井隆行の人生最高のお買いもの「河井寬次郎書の掛け軸」
1957年、陶芸家・河井寬次郎がミラノ・トリエンナーレでグランプリを受賞した年に書かれたもの。寬次郎の生まれ故郷である安来への思いが表れている。

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