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現代美術作家・杉本博司の人生最高のお買い物「南無仏太子像」

人が欲しいと思うものには、その人の価値観や人生観が表れます。何を思い切って手に入れ、何を大切にしてきたか。“お買いもの”とは究極の消費行動であると同時に、自分の人生を彩るために何が必要なのかを教えてくれるものです。現代美術作家・杉本博司さんのベストバイ・ストーリーは?

text: Masae Wako

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自分の眼を信じ得るレベルに導いてくれた、鎌倉時代の聖徳太子像

聖徳太子は2歳の春に東方を向いて合掌し、「南無仏」と唱えたという。この説話上の姿を表したのが「南無仏太子像(なむぶつたいしぞう)」。鎌倉時代の木造彫刻です。

出会ったのは1980年代。70年代後半から現代アーティストとしてニューヨークで活動していた私(わたくし)が、古美術商の仕事を始めた頃ですね。手に入れた経緯や場所は秘密。全財産をつぎ込んで購入しました。古美術商は身銭を切る仕事ですから、ものを見るのも命懸けなのですが、この時は「人生で初めて美術館レベルの作品を買うことができた」と確信した。

そしてすぐにニュージャージー州の〈プリンストン大学美術館〉に納めることが叶いました。つまり、私は私の眼を信じ得るレベルに至ったということです。私の片方の眼はアーティスト。もう一つの眼は骨董商でコレクター。私にとってアーティストと古美術のコレクターの間に区別はありません。同じ一人の人間のうちにあり、どちらが上でどちらが下でもない。

なぜ惹かれたのか?異性に惹かれるのと同じだと答えておきましょう。私の人生を変えた買い物、そういうことです。今は遠く大学美術館にありますが、私の旅立ちの時には、お迎えに来てくれる気がします。

南無仏太子像
日本に仏教を取り入れた聖徳太子(厩戸王)は、さまざまな年齢の肖像が信仰の対象となる。2歳児の姿を表した像は「南無仏太子像」と呼ばれ、各地に現存。©Hiroshi Sugimoto courtesy of Odawara Art Foundation

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