買い初めの茶道具は、500年昔の“茶人の刀”
茶杓は茶人の刀である、とよく言われますが、私もこののびやかさと姿形の美しさに魂を奪われた。それが高校1年生の夏でした。出会ったのは茶会で訪れた大阪の茶道具商。一つは千利休の師匠である武野紹鷗(たけのじょうおう)の作で、もう一つはわび茶の祖、珠光(しゅこう)ゆかりの珠徳(しゅとく)の作。一双入りになった2つの茶杓は高校生に買える価格ではなかったものの、夢にまで現れて……1週間悩み、貯金を取り崩してなんとか手に入れました。
専門の職人がいる茶碗や釜と違い、茶杓は茶人が自分の手で削り魂を込める唯一の茶道具。つまり人に近いんです。茶杓を手に古(いにしえ)の茶人と対話する喜び、シンプルゆえにごまかしの利かない美しさ。今もって自分の美を見る物差しとなっています。