自転車界のレジェンドが理想を貫いた姿勢に今こそ共感
小さい頃から自転車だけはずっと好きでした。3年前、日課の自転車ショップのパトロール中に出会ったのが、今はなきブランド、〈Klein〉の1992年製のマウンテンバイク。ほぼ未使用で、傷一つないS級コンディション。
ずっと探していたことを悟られないよう、冷静に取り置きをお願いし、「デザイナーの仕事にも関係ある素晴らしいプロダクト」という妻へのプレゼンに成功した翌朝買いに行きました。〈Klein〉は、MITの学生だったゲイリー・クラインが1975年に立ち上げた、軽くて剛性を備えたアルミ製のファットフレームの元祖です。
実は発売当時、小学生の自分にはその価値がいまいちわかりませんでした。この色使いもカッコいいのか判断しかねるし、それでも明らかに異質で深く記憶に残って、気づけばいつか欲しいと思うようになりました。自転車ってメーカーが違ってもパーツの互換性があるものですが、これはハンドルと一体になったステムなど独自規格が満載。自転車好きもうかつに手を出せない孤高の存在で、だからこそ販売不振でブランドが消滅してしまった。売れる売れないを超越して自らの自転車の理想像を追求した姿勢に、デザイナーとして憧れています。
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