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歌人・穂村 弘の人生最高のお買いもの「たばこの広告の額」

人が欲しいと思うものには、その人の価値観や人生観が表れます。何を思い切って手に入れ、何を大切にしてきたか。“お買いもの”とは究極の消費行動であると同時に、自分の人生を彩るために何が必要なのかを教えてくれるものです。歌人・穂村 弘さんのベストバイ・ストーリーは?

photo: Shinsaku Yasujima / text: Ryota Mukai

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初の自費出版作を彩った、アンティークのポスターとフレーム

額をよく買うんです。ポップでノスタルジックな雰囲気のあるものが好きですね。これもその一つで、1980年代、私が20代の頃に3,000円で買いました。当時原宿駅前にあった〈リモーネアンティーク〉という店でたまたま見つけたんです。

枠のミントグリーンは当時すでに懐かしさを感じるカラーでした。広告も内容こそ詳しくはわからないけど古風な印象がある。

これが特別大切なものになったのは、初めて自費出版した本『シンジケート』の装画になったから。出版費用は108万円と、当時の私にはとてつもない金額でした。だから一層思い出深い。以来、いろんな額を買ってはいますが今後もこの額だけは捨てることはないでしょうね。

たばこの広告の額
1786年創業のイギリスのたばこ製造会社〈W.D. & H.O. Wills〉の広告。「キャプスタン」は1894年発売。フレームはおそらくお店が付けたもの。

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