「“あなたにぞっこん惚れている”とかね。いいにつけ悪いにつけ、本心を書くということは大事なことだよ」
友達に、家族に、仕事で知り合った人に。手紙を書くのが好きだと話すのは、染色家の柚木沙弥郎さん。ただいま101歳の現役クリエイターだ。25歳の時、民藝運動をリードした染色家の芹沢銈介と出会ったのを機にこの道へ。以来76年、型紙を使って布や紙に模様をあらわす「型染め」を中心に、多くの作品を作り続けてきた。
そんな柚木さんに、BRUTUSの1000号に寄せたオリジナルアイテムを作ってほしいと相談したところ、お返事は「手紙にまつわるものにしましょう」。柚木さんのカラフルなイラストをあしらったレターセットやポストカードを、特別に制作することとなった。
「手描きの手紙は、書いているあいだじゅう相手のことを考えるでしょう。相手に対する想いが全部詰まっている。そういう楽しさがあるね。だから心を込めて書く。誰かから届くことばも、手紙だとうれしいじゃない?」
この日はアトリエのある自宅で、柚木さんが今までにご家族やお孫さんへ送った手紙を見せてもらった。季節の挨拶や近況を伝える文章には、色鮮やかな絵やイラストが添えられている。「ありがとう」「又 会いたいよ」というシンプルなひとことも、手描きだと断然やさしくあたたかい。文末のサインは、「さみろ おじいちゃん」「SAMI」「SAMIRO」といろいろだ。
「手描きの文字で想いを伝える喜びを、BRUTUSを読む若い人たちに知ってほしいよ」と柚木さんは言う。
上質な紙に可愛いイラスト。柚木さんのレターセットが完成!
今回、柚木さんとともに商品を作ってくれたのは、柚木さんの孫で、千葉県市川市の焼き菓子店〈hana〉を営んでいる丸山祐子さん。BRUTUS1000号記念の特設サイト「あしたのベストバイ」内には、期間限定のウェブショップ〈samiro × hana〉もオープンする。
「レターセットには、ちょっと上質なアラベール紙を使っています」と丸山さん。アラベール紙は、画用紙をきめこまやかにしたような質感が特徴で、触り心地も書き心地もやわらかい。便箋は罫線ナシのシンプルなもの。カード代わりにも使える小さめサイズにした。
BRUTUSの「B」を描き下ろし。シンプルなマグカップも作りました
さて、実はもうひとつ、柚木さんが作ってくれたスペシャルなアイテムがある。それは描き下ろしによるマグカップ「Bマグ」。Bの文字は、最近お気に入りの”葦ペン”と真っ黒なインクで描いたものだ。
大文字のB、小文字のb、滲んじゃったB、かわいいb……。いろいろ描いた柚木さんがその中からひとつ選んだのは、まっすぐに立つ明るさと、ユーモラスな表情の両方をあわせ持つ大文字の「B」。文字の味わいが生きるよう、マグはごくシンプルなデザインにした。
コーヒーが大好きで、「あまいおやつがあれば人生は幸せだね」と話す柚木さんにとって、マグカップは親しみのある日用品。「Bマグ」にも、BRUTUSへの愛情がいっぱい詰まっている。