時代を超えて共有し、分岐する「怖さ」と「その先の感情」
佐藤直子
〈バミューダ3〉というのはホラーゲーム『SIREN』に登場するアフロヘアの三つ子アイドルグループ。私たちはその名を借りて3人でLINEグループを作って、2年くらい前から映画とかゲームの話をしたり、普通に会って遊んだりしていたんです。
背筋
もともと私と西山さんは、佐藤さんが脚本を手がけた『SIREN』のファンだったんですよね。
西山将貴
『SIREN』をいつか実写映像化したいと言っていたら4年前に縁あって知り合うことができて。ただ、こうしてプロジェクトでご一緒させていただけるのは今回が初めてです。
佐藤
私たちは世代も性別も異なりますが、アイデアを出し合ったときに一番盛り上がったのがノストラダムスの大予言でした。1999年生まれの西山も含めて、それぞれが異なる向き合い方で終末論に興味を持っていた。展覧会自体はご依頼いただいたものだったのですが、7月に六本木ミュージアムの空きが出るとわかったときは奇跡だと思いました。1999年の7の月を2025年の7の月に再現できると。
西山
準備当初に佐藤さんと背筋さんが強く主張していた「ただ怖いだけで終わらない展覧会を作りたい」という信念に僕はすごく感銘を受けて。この2人が本気で「怖さ」を突き詰めれば、きっととんでもないものができる。でもそうじゃなくて、怖いという感情の先に希望や明日生きることへの後押しといった何かを、観た人に持ち帰ってもらおうと思って作っていました。
佐藤
「世界の終わり、見たいでしょう?」という惹句には、露悪的にならないような思いを込めています。誰しも「死にたい」とか「終わってほしい」という感情を持つことがあると思いますが、それは「生きたい」であり「また始めたい」の裏返しであるはず。
そうした思いで、本展覧会では現在から1999年の「世界の終わり」へと導かれる中で、自分の人生と向き合い、もう一度新しい姿で現実に帰ってくる体験を作りたいという話をしていました。それを背筋さんが「私の終末」という物語に落とし込んでくれた。
背筋
振り返ると、今回の出発点は「ホラーやモキュメンタリーを作ろう」ではなかったのかもしれません。それよりもこうした「怖さの先の感情」の方が明確に届けたいものとしてあった。それを最適に伝える方法を考えるというよりも、どう一人一人に感じ取ってもらい、咀嚼(そしゃく)してもらうか、ということを重要視していたと思います。
佐藤
「これは新しい形の展覧会になる」と、進めながら気づいていった感じだったよね。空間プロデューサーやディレクターの協力もものすごく大きかったです。
私たち3人はそれぞれ培ってきたスキルがありますが、音楽でセッションするようにアイデアや成果物を即興で投げ合い、それが奇跡的に混じり合った感覚がある。文化的な遺伝子が同じなんだなと、意見を交わしているときにいつも思います。
背筋
みんな自分の考えを持ってるけど、それぞれの考え方に関心があるから喧嘩にはなりませんでしたね(笑)。
西山
僕は映像周りを担当しましたが、「好きに暴れてくれ」と2人から言われたのがうれしかったです。展覧会は映像と違ってお客さんの反応を間近で見られるので、会期中にどんどんブラッシュアップできるのもいいですよね。
背筋
映画や小説の物語は結末に向かって収束し、閉じていくことが多い。それに対して、出口に向けて解釈が広がっていく、イメージの中で感情が拡散していくのが展覧会の特性でもあると感じます。やりたいこととフォーマットが一致していたとも思いますね。
佐藤
1999年には生まれてなかっただろうお客さんも見かけますが、本展を通してどこか共有できる感覚があると思うとうれしいです。ホラーは、自分事になった瞬間が一番怖い。一人一人が主人公になれる展示という体験に没入して楽しんでほしいですね。
