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別府が大好きすぎる外国人アーティスト・メフンヘの別府温泉滞在記

別府温泉が大好き!というアルゼンチン出身のアーティストユニット・メフンヘの2人。自然と生活と温泉が直結した町で感じた魅力とは。


初出:BRUTUS No.858「温泉♡愛」(2017年11月1日発売)

photo: mejunje, Cameron Allan McKean (portrait) / text: Keiko Kamijo / map: Shinji Abe

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アルゼンチン人のアーティストユニット、メフンヘの2人が最初に別府に滞在したのは5年前の冬に遡る。友人からの誘いを受け、初めて別府の町へと足を運んだ。別府温泉といえば、源泉数も湧出量もともに日本一を誇る温泉の町だが、観光客向けの温泉街とは少し異なり、生活空間と直結した市営の温泉が多いのが特徴だ。

別府温泉(大分県)
別府市内には住民のための市営の共同浴場が点在。市街地にある温泉は100円から入湯可能だ。基本的にシャワーや蛇口などはなく、浴槽の湯をかけて体を洗い入る。石鹸などはない。泉質はさまざまだが一様に湯温が熱めなのが特徴。(別府市観光協会 TEL:0977-24-2828)

別府での体験は、最初2人にとって驚きの連続。長期滞在するうちに、だんだんと離れがたいものになっていった。

「別府に来てから時間が止まったような感じがしました。私たちの作品は、観察をしたり、人との関係から生まれたり、スローなプロセスから作られます。長く滞在して、静かに考える場所として別府は最適だと思う」とメルセデス・ヴィラルバは語る。

「歯磨きをしながら温泉に向かうおじいさんがいたり、風呂上がりに上半身裸で道を歩いていたりする人の様子を見て、最初は驚いたけど、風呂がないアパートもあると聞いて別府の温泉というのは家が拡張した場所なんだと気づいた。別府の町には多くの発見がある」とジュリアン・ガット。

結局、途中で帰国を延期し、ブエノスアイレスの家を貸して、別府に3ヵ月間滞在。彼らは、地元の人たちと一緒に毎日2〜3回温泉に浸かり、自炊したり近所のリーズナブルな店でご飯を食べ、地元の人たちと交流しながら町を観察した。帰国後も別府での体験が忘れられず、今夏再び戻ってきた。

大正時代の建物そのままの共同浴場〈寿温泉〉。湯は鉄分が多く子宝の湯とも。

東別府駅前の〈東町温泉〉は公民館を兼ねる。電車の待ち時間にひとっ風呂可。

〈東町温泉〉。広い浴室に対し、小判型の浴槽は2人入ったらいっぱいの狭さ。

湯の温度が熱いことで有名な別府の中でも〈松原温泉〉はぬるめで入りやすい。

〈松原温泉〉は洗い場と脱衣所が一体となっている別府温泉によくある様式。

明礬温泉へ向かう途中で見つけたという岩。硫黄が付着して変色している。

水、錆、蒸気、地熱の活動、生活空間の中にある自然

2人は、なぜそこまで別府の町が好きになったのだろう。ジュリアンはこう答えた。

「温泉の水は、緑や黄土色に変わったり、錆びたり、塩で白く変化したり、蒸気になって噴き出したり……。別府という特定の生活空間に関わりながら、毎回違う表情を私たちに見せてくれる。町を歩きながら見られる水の表情はすごく刺激的だった」

2人がナンバーワンだと言う共同浴場〈梅園温泉〉は怪しい路地が入口。

〈梅園温泉〉は熊本地震で被害に遭い休業中。再建に向け2人も寄付をした。

公民館を兼ねた〈住吉温泉〉は、まさに暮らしに根ざした温泉。泉質は重曹泉。

別府市の郊外の山にある乙原(おとばる)の滝。水が織り成す風景に2人は感動したという。

鶴見岳の南側、船原山の中腹にある滝。落差は約60m。神秘的な雰囲気を醸す。

「蒸気や水滴、湿度と多彩に水が変化する風景は飽きない」とジュリアン。

彼らは今年も2ヵ月間滞在した。別府が好きすぎるあまりに、メルセデスは現在通う大学院の博士論文のテーマも別府にする予定だ。

「別府の魅力は多層的でまだわからない部分が多い。火山活動が水に影響を与え町中に流れる。それがゆったりとした時間を生み出しているのかもしれない。私がなんとなく感じる“居心地のよさ”を、また別府に滞在してもっともっと深く知りたいと思っています」

メフンヘが通い尽くした別府湯巡りマップ
今夏の別府での滞在を経て、ジュリアン・ガットが手がけたインスタレーション「Semi-transparent sticky states」。空間に配置されたオブジェクトが、周囲の環境に呼応して絶えず動き変化する。

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