1泊2日の静岡ビール旅程
1日目の朝から静岡市用宗(もちむね)と、静岡駅周辺のタップバーをはしご。夕方に電車で掛川へ、浜松のブルーパブにも足を延ばし、そのまま宿泊する。翌日は東へ、沼津の3軒を巡れば、静岡ビール旅の完了だ。
富士山の自然や伊豆の温泉など、水資源や観光資源が豊富な静岡県は、1994年の酒税法改正以降、小さな醸造所が数多く生まれ、ビール造りが盛ん。県民も大手以外のビールに慣れ親しんできた。今や日本を代表するクラフトビールの一つ〈ベアードブルーイング〉のペールエールやIPAが、最初に地元で愛飲されたのは、静岡県人がビールの多様性を知っていたからだ。
「静岡市の繁華街には10軒以上のタップバーがあり、徒歩で回れます。これだけビールの店が充実した環境、日本でも珍しいでしょ?」。静岡・用宗〈West Coast Brewing〉代表のアメリカ人、バストン・デレックさんは言う。ほかにも海外出身の醸造家、またクラフトビールを愛する県民性に惹かれて移住する人までいて、日本のみならず海外のビアファンからも注目を集めているようだ。
太平洋に面した海岸にはヤシの木も生える、静岡。最高の一杯を求めて県内を巡れば、アメリカンIPAにセゾン、イングリッシュビターエールなど、さまざまな国のビアスタイルを楽しむことができるだろう。
day1/11:00
West Coast Brewing 用宗タップルーム
直球の西海岸スタイルで注目を集めるブルワリー
2003年から静岡に住み、設計の仕事に携わっていたデレックさん。入浴施設〈用宗みなと温泉〉の設計を依頼された際に、敷地の余ったスペースをブルワリーに活用し、2019年に自らオーナーに。
「故郷のシアトルにいた時から、クラフトビールラバー。好きが興じて、静岡市内でビアバーを開業したほどです」。
シラス漁で知られる用宗は、清流として名高い安倍川の河口に近く、まろやかな口当たりの軟水が湧く場所。
不純物のない天然水に「ほかではあり得ない」と話す大量のホップを投入したシャープな飲み口のウェストコーストIPA、またホップの果実味が強烈なヘイジーダブルIPAもシリーズ化する。
「2022年にブルワリーの向かいに、ビアホテルを開業しました。客室には宿泊者限定ビールが繋がるビアタップ付きです!」。目指すのは、WCBと港町・用宗を満喫するマイクロツーリズム。併設のタップルームは宿泊者以外も利用可能だ。
day1/13:00
Beer OWLE
静岡とカナダ産のビールが揃う、ボトルショップ
2019年開業。〈West Coast Brewing〉や沼津〈Repubrew〉といった静岡県のビールのほか、海外産を含め100銘柄が並ぶ。運営するのは、カナダ・ブリティッシュコロンビア州のクラフトビールを輸入する〈BC Beer Trading〉。
CEOの草場達也さんは、仕事でバンクーバーに住んでいた際に、クラフトビールの魅力に開眼したと話す。「創業は東京ですが、この店の開業に合わせて本社を静岡に移しました。今やバンクーバーでは、ビール需要の20%を小規模醸造所が占めるまでに。この潮流を日本で最初に根づかせるなら、昔からの飲み手が多く存在する静岡しかないと考えました」。
流行に左右されずに客の要望に応えるべく、ブラウンエールやピルスナー、ヴァイツェンなど、さまざまなスタイルを揃える。
day1/18:00
FIESTA GARCIA
キヌア入りビールとペルー料理を提供するタップルーム
2004年にペルーから来日した、代表のフレディ・ガルシアさん。「ベアードビールのIPAを飲んで、感動しちゃって。でも日本で修業する伝手がなく、一度故郷のリマへ戻って、ブルーパブで勉強しました」。
再び来日してお金を貯め、16年にこのビアパブを開業。19年には静岡市清水区で念願のブルワリーを構え、今では全8タップに自社のビールのみを繋ぐ。「ビールには、ペルーでポピュラーな穀物・キヌアを必ず入れます」。
このスーパーフードで、まろやかさをプラス。また、ガルシアさんの実家は元酪農家。発酵学を勉強したという兄・ジャンさんが、醸造所内で朝霧高原の牛乳を使って仕込むフレッシュチーズは、この店でも人気のメニューだ。焼くとコクが増して、爽快な口当たりのIPAと好相性。
day1/20:00
BUCKET HERE
ベルジャンビールが得意なブルワリーの直営パブ
2018年に創業した掛川初のブルワリー〈カケガワビール〉のタップバー。市内で飲食店を経営する代表の杉浦健美(すぎうらたつみ)さんは、故郷の農業の魅力を発信すべくビールに着目、ベルギーで醸造を学んだ西中明日翔(にしなかあすか)さんをブルワーに招聘(しょうへい)した。
「うちのビアマネージャーが〈ブラッセルズ新宿店〉で店長だった際の同僚です。昔ながらのベルギーの農家のビール造りを参考に、地場の農産物を副原料に使ってビールを仕込みました」。
地元が誇る深蒸し茶やほうじ茶はエール、県産の桃やミカンはセゾンに。今人気のヘイジーやIPAよりも、ベルジャンスタイルを得意とする。また元はアパレルデザイナーだった杉浦さん。その人脈を生かして、Letterboyなどのアーティストとのコラボビールも限定で販売する。
day1/22:00
SMASH BOYS
マイスターが仕込むIPAが自慢のブルーパブ
「浜松の中心市街地に賑わいを取り戻すべく、人気BBQショップ〈THE SMOKE CLUB〉と、このブルーパブを運営しています」と、醸造責任者・千葉恭広さん。ミュンヘン工科大学ビール醸造工学部を卒業してマイスターを取得しながら、帰国後はリチウム電池の研究に勤しんだ異色の経歴の持ち主だ。
「実はベルギービール志向だったのですが、ドイツが最も学費が安くて。IPAも好きなので、特定の国の造りにこだわらずにレシピを考えます」。
代表作・ブレイクアウェイIPAはホップフレーバーが華やかで、ラガーのような軽やかな飲み口。ドイツ×アメリカの掛け合わせは、千葉さんだからなせる業だ。その腕に感心した地元農家やさまざまな企業からの要望で、今後も多数のコラボビールを予定している。
day2/12:00
沼津フィッシュマーケットタップルーム
日本を代表する醸造所のタップルーム第1号店
修善寺〈ベアードブルーイング〉は6,000ℓの仕込みタンクを備える、日本を代表する人気ブルワリー。創業は沼津で、この店にルーツがある。
「アメリカ人の社長ブライアン・ベアードと妻のさゆりが、ビールと日本の家庭料理を提供すべく、2000年にここを開業しました」と話す、マネージャーの松本宗幸さん。
01年に店内醸造を開始するや、アメリカンスタイルのペールエールやIPAがビール好きの心を摑(つか)み、その後の日本のクラフトビールブームの立役者となった。
醸造所は移転するも、この店はメニューも雰囲気も創業時のまま。ここでビールを味わいたいと、全国からファンが訪れる。週末は昼から営業するので、窓越しに沼津港を眺めて、ゆっくりベアードの歴史に思いを馳せる一人客も多い。
day2/14:00
沼津クラフトテイスティングルーム
英国式のビターエールが味わえるタップルーム
沼津市の千本松原は駿河湾に面し、富士山も拝める風光明媚な土地。その近くの住宅街で2018年にタップルームを開いたのが、代表の片岡哲也さん。イギリスの港町・ブライトンに留学した際にパブの魅力に目覚めたと話す。帰国後は2007年から9年間、〈ベアードブルーイング〉で醸造を担当。
「英国ではビールを片手に、サッカー観戦や会話を楽しむ人が多い。ダラダラ飲めば炭酸が抜けますが、向こうでポピュラーなビターエールはモルトが効いて、ぬるくてもおいしいんです」。
しみじみ味わえるエクストラ・スペシャルビターと、きめ細かい泡のクリームラガーが片岡さんのシグネチャー。ボトル購入で来るご近所さんが多く、一杯飲んでいく人も。ぬるくなっても話に興じる姿は、ここでは日常の風景だ。
day2/16:00
Repubrew
ウェストコーストIPAが評判のブルーパブ
クラシックなウェストコーストIPA「69IPA」をシグネチャーに、2017年に開業。往年のビールファンからの評価が高く、全国区の注目を集めた代表の畑翔麻さん。「西海岸そのままではなく、日本人の舌や体質、静岡の水質に合わせたIPAです。他県のタップバーにも卸すので、この一杯をきっかけに沼津まで来てくださる方も多いんです」。
クラフトビールの町・沼津での開業に際し、遠方の客もアクセスしやすい駅前の立地にこだわった畑さん。全20タップに繋ぐ自社ビールには、定番のピルスナーから限定のセゾンやヘイジーIPA、スタウトに加え、ドイツの黒ビール・シュバルツが揃う日もある。醸造発酵学を学んだ畑さんが醸すビールは、雑味のない飲み心地。料理はラムのステーキやピッツァが揃う。