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このかわいさ、国宝級!“コッカプー”のミックス犬、ビール

見たことがない犬種だけど、とてつもなく可愛い。思わず「この子、何犬ですか?」と聞きたくなることがありませんか?この写真のビールはアメリカン・コッカー・スパニエルとプードルのミックス。いい味出してる、オンリーワンなワンコは眼福保証。

初出:BRUTUS No.913『犬がいてよかった。』(2020年4月1日発売)

photo: Shin-ichi Yokoyama / text: Hikari Torisawa

人気作家に「描けない!」と思わせるほどの愛しき存在感

アメリカン・コッカー・スパニエル譲りのウェービーな長毛に、プードルから受け継いだふわふわカール。キュートでフラッフィな格別の存在感で、1960年代から愛されてきたミックス犬が“コッカプー”だ。時に「ビル山ビル男」「国宝ドッグちゃん」などのあだ名でも呼ばれるビール君は、アーティストの大河紀さん夫婦と一緒に暮らしている。

「犬より人間が好きで、人が行き来する場所だと知ってからは交差点もお気に入り。フレンドリーで気のいい3歳の男の子です」

幼い頃から犬好きだったものの、これまで犬を飼ったことがなかったという大河さん。でもいつかは犬と暮らしたいと、ペットOKの物件を探し、引っ越しを機に、噛まれても誤飲のないアイアンの脚付きの家具に買い替えて準備を整えた。

「私の生活、私のポテンシャルで犬を育てられるだろうか、というのは考えに考えました。犬種、気質、生活習慣などについて2年間ぐらい調べ上げて、一時期は犬博士と呼ばれるほどになって(笑)。犬種にこだわりがあったわけではなく、いろいろ調べるうちに、初心者の私でも幸せにしてあげられるかもしれないと思えたのがコッカプーだったんです」

会社を辞めて専業作家になったことや、コロナ禍の影響で在宅時間が延びたことにも背中を押され、ブリーダー探しをスタート。ネットで写真を見てどうにも気になったビール君と兄弟たちに会いに行ったのが3年半ほど前のことだった。

「生まれたばかりの4頭兄弟のなかでもビールは一番のおチビ。兄弟たちの下敷きになって潰されているような子でした。生後2ヵ月たってお迎えした時はまだ両手のひらに収まるくらい。今も使っているケージの隙間からスポンッと抜け出しちゃうくらい小さかったのが、6kgにまでなりました」

アメリカン・コッカー・スパニエルとプードルのミックス犬「コッカプー」のビール
生後2ヵ月頃。毛の色や質感、座り方に赤ちゃんらしさが滲(にじ)む。

一日たりとも目が離せない。このかわいさ、国宝級

柔らかな毛質を引き立てるかのような、クリームと表現される毛色もさまざまに変化を見せる。

「赤ちゃんの頃は全体的に茶色っぽくて、耳の色が濃くなったり、笹かまのように背中の真ん中が茶色くなったこともありました。ときどき分け目も変わったりして、写真を見返してみるとびっくりします。トリミングはひと月半に1度くらい。あまり細かいリクエストはしていないんですが、バリカンではなくハサミで切ってもらっています。かなり前ですが、一度ブライアン・メイみたいにカットされたことがあって(笑)。預けた時よりでかくて四角くなって帰ってきたのは面白かったです」

アメリカン・コッカー・スパニエルとプードルのミックス犬「コッカプー」のビール
おもちゃはたくさん持っているが、ご近所さんの愛犬のお下がりでもらったボールがお気に入り。

XInstagramのビール君専用アカウントでは、ご飯(をなかなか食べない)動画も大人気。

「少食でご飯があまり好きじゃないのが悩みです。おやつをトッピングしたり、手から食べさせたりいろいろやってみるんですが、どうも“ご飯”という単語を面白くないものとして覚えちゃったみたい。最近“生おやつ”と名称を変えてみたら少し興味を持つことが増えたかな?」

SNSのアカウントは分けているものの、大河さんの作品にもその姿やモチーフはたびたび登場する。
「こんなかわいい尊い存在を絵で表現できるわけがない!と飼い始めて1年ぐらいは全く描けなかったんです。でもせっかく絵を描く人間なんだからイメージを残したい、と考えていざ描き始めてみたら、もう愛が溢れて、描くのがすごく楽しくなりました。犬をテーマにした展示も、年に1回ペースで続けています」

絵だけでなく、ビール君の写真を使ったTシャツ、スマホケースに器、カレンダーなどのグッズも作る。
「愛犬Tシャツ、本当に欲しくなっちゃうものなんですよ……とはいえ、あれらは作品というより悪ふざけの範疇(はんちゅう)です(笑)。iPhoneで撮影した3万枚以上ある写真から選んだもので作っています」

ビール君という愛しき存在が日々の生活を健やかなものに

「ビールと暮らし始める前は一歩も外に出ないまま1週間過ごすのもザラだったんですけど、今は何があろうと朝起きて散歩に行く。1日2回、1時間かそれ以上歩く習慣ができて、生活リズムも整いました。調子がいい時は2時間も歩いて、行くところまで行った揚げ句抱っこをせがんでくることも。ただし雨の日は、レインコートのカシャカシャした感触が歩きづらいみたい。部屋の中で遊んで過ごします」

毎日ほとんどすべての時間を一緒に過ごし、旅先へも連れていく。
「なにしろ人間好きな甘ったれなので、私たちがリビングにいれば膝上でくつろぎ、食事中はダイニングテーブルの下に潜り、夜は寝室のベッドを悠々使って一緒に眠ります。作業場にしている部屋もあるんですが、ビールをお膝から下ろしたくないばかりに、iPadを持ってきてリビングの床に座って絵を描くことも増えました」

はしゃいだり、無防備に寝転がっている姿を見ると「なぜこんなかわいい生き物がここにいるんだろう」と不思議に思い、ありがたい気持ちになるという大河さん。ところでビール君の名前の由来は?

「小さい頃に仲良くしてもらっていた家族が飼っていた犬の名前なんです。ビールを迎える時に連絡して、無事襲名することができました。飲み物の方も、大好きです」

アメリカン・コッカー・スパニエルとプードルのミックス犬「コッカプー」のビール、イラストレーター・大河紀
近くの公園でお散歩。躍動感のある走る姿は「タタリ神」の異名を持つ。大河さんの作品にもたびたび登場。

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