パンが先か、ビールが先か
麦と発酵、2つの共通項を持つパンとビールは親和性大。ビールの起源はパンを水に浸して自然発酵させて造ったものとされ、古くはビールを「液体のパン」と呼んだとか。
そんなパンとビールの深い関係を目の当たりにできるのが、中国山地の山間に工房を構える〈タルマーリー〉。自然豊かな里山の環境で野生の菌を採取して自家製酵母を起こし、パンを発酵させビールを醸している。
もともとパン職人だった店主・渡邉格さんがビールの醸造を始めたのはパン作りに必要なビール酵母を安定して確保するため。ビールの一次発酵で発生する澱(おり)は、一般的には廃棄されることが多いが、実は発酵のために働ける酵母が豊富に含まれる。〈タルマーリー〉ではこの澱をビール酵母としてほとんどのパンに使い、また新たにビールを仕込む際、老舗ウナギ店のタレのように繰り返し投入し、継ぎ足していく。
同じ酵母を分け合ったビールとパンは双子のよう。オーガニックの麦芽とホップを原料にしたビールは長期間の熟成に耐える底力を、長時間低温発酵させたパンは奥ゆかしい旨味を持つ。日々の食卓に調和する名脇役だ。