これはただの鎮魂歌ではない。染谷将太×甫木元空が語る映画『BAUS 映画から船出した映画館』

もちろん恩師ではあるんですけど、先生と呼ぶことはなくて、友達とすら言えてしまう不思議な人だったんです。なにしろ最初の授業が「俺は映画を教えることに懐疑的だ」という宣言から始まっていたので（笑）。

知れば知るほど、チャーミングな人なんですよ。夜中に謎の着信履歴があって、「電話しました？」って聞くと、なぜか知らんぷりとか（笑）。でもずっと憧れの存在でしたし、今回のお話をいただいたときは、一人の観客としてワクワクしました。なんて素敵な企画なんだろうって。

青山さんの脚本は尺的にも長くて、「これ、どうやって撮るの？」と思うものだったんですよね。

最初のページをめくると、「江戸が燃えている」と書かれていましたから（笑）。江戸の大火で吉祥寺という寺が焼失して、その周辺の住人たちが別の場所に吉祥寺という町を作り、やがて映画に未来を見出す物語だったんです。

その脚本のセリフを残しつつ、甫木元くんは自分らしさをミックスして、人間の記憶を旅するような物語に仕上げていったような気がします。

もともとあったスケール感を大事にしながら、“町”から“人”にフォーカスを当て直して、家族の話に重点を置いていったんですよね。

構成としてはいびつかもしれませんけど、青山さんの興味はそこにあると思ったんです。サネオが映画館で『カリガリ博士』を観て、映画に夢中になるのと同じように、その子供のタクオも映画館に忍び込んで、お客さんの隙間から映画を観る。そうやって映画に取り憑（つ）かれてしまう、親子2代にわたる映画の原体験を描きたかったんじゃないかって。

映画という概念が大きく変化した時代ですよね。でもこの映画が描いた、その先の時代を我々は生きていて、そこでもまた映画という概念が大きく変化している。そうやって過去だけでなく、未来を感じさせる構成になっているなと思いました。

青山さんがまだ脚本を書いていたとき、ドクター・ジョンというミュージシャンの葬儀が行われる映像を見せてくれたんです。街の中をマーチングバンドが行進していくんですけど、その映像を観ながら、葬儀というのは死を受け入れて、その先に進んでいく儀式なんだなと。だから、終わりのあとには始まりがあるということを、撮りながらずっと考えていました。

きっと弔う側は、失われたものから養分を吸い取って、豊かになるべきなんでしょうね。たしかにレクイエムではあるけど、たくさんのものを吸収して、心に開いた穴がふさがっていくような感覚になりました。