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バンコクの働くバイクは、ベスパ!タイ好き写真家が“働くベスパ”の風景をスナップ

渋滞地獄&バイク天国のバンコクで、もっとも存在感を発揮しているのは、なぜかベスパ。タイ好きフォトグラファー・相馬ミナが“働くベスパ”の風景をスナップ。

photo&text: Mina Soma

バンコクは世界有数の渋滞大国です。朝も昼も夕方も、いつだってどこかがひどく渋滞していて、時にうんざりしちゃうことも。旅の間はよくタクシーや配車サービスを利用しますよね。タイの運転手さんは渋滞にハマると決まって「ロッティットマーク」(めっちゃ渋滞やで)って言ってきます。言っても変わらないけどね、ぼやきたくなる気持ちも分かります。

そんなバンコク、渋滞を避ける一つの手段として、バイクがたくさん走っています。これはそんなバイクのお話。

バンコクにはヤワラートと呼ばれる中華街があり、そこではたくさんのバイクが荷物を載せて走っているのを見かけます。それだけだとタイや東南アジアでは見慣れた光景。

ですが、ここヤワラートでは一味違います。たくさん走るバイクの中、ひときわ目立つ存在がいます。ビーーーーーン!ババババ!とけたたましく乾いたエンジン音を響かせて走っている、そのバイクはベスパなんです。しかもみるからにとても古い、ヴィンテージのベスパです。

ベスパのイメージといえば、オシャレでこだわりのある愛好家が多いイメージがあるかなと思うんですけども。それがここヤワラートでは、いろんなバイクに混ざってベスパがたくさんの荷物を載せて北へ南へ西へ東へ、細い道路や渋滞もなんのその、縦横無尽に走り回って働いているのです。

座席を覆うように専用のキャリアを取り付け、時には100kgを超える荷物を載せています。

バンコクの街中のヴィンテージベスパ
荷台は専門店で購入。いろいろなメーカー用のものが揃っているとか。

「もう40年以上乗ってるよ、この2台は。強くて頑丈なんだよ。左がイタリア製で右がインド製、見た目にそんな違いはないよ」そう語ってくれたのはヤワラートにある漢方薬卸問屋のオーナーさん。

このあたりで走っているベスパはその多くがスプリント150cc。馬力もあって走りやすいんだとか。

荷物を載せて絶妙なバランスを保たなくてはいけないとき、ハンドルでのギアチェンジはとても使い勝手が良いそうです。安定しそうですね、確かに!

バンコク、ベスパの荷物置き
平らにして荷物を置きやすくしています。

「これは、足元にも荷物を置きやすくするために自分で作ったよ」と見せてくれたのは木でできたアダプター(!?)。故障しても修理して乗り続け、時には使いやすくするように自分でDIYするんだそう。それにしても木ってのがいいね。現行のバイクと違って全部スチールでできているから、ぶつけちゃったりしても板金して塗装したら、また新品のように蘇るんだって。

「部品は全部揃うよ、インドで製造してるものを使ってるよ。だから故障しても大丈夫、ここに来たら修理してあげるよ」と言うのはヤワラートの少し北にあるバイク修理専門店〈Super Mana Yon〉のオーナー。ここで商売して45年、お店の前にはたくさんのヴィンテージバイクが停まっていて修理を待っています。

お話を聞いていると、どうやら働くベスパ(私はこう呼んでいる)はヤワラートだけに多く走っているのではなく、近辺にあるサンペン市場付近の卸問屋さんも多く使っているんだとか。

サンペン市場に立ち寄ると、布のロールがたくさん保管してある問屋さんを見つけました。ひとつ20キロはゆうに超えるというその大きなロールを一つまた一つとベスパに積み重ねています。積んでいるのは10代から20代前半の若者。みんな少し照れながらベスパが好きだと教えてくれました。

「エンジンのカバーを外しているのは格好いいから」「この仕事が好きだよ、楽しいんだ」

車体が安定していて、鉄製で頑丈。部品は今も揃っているから、何かあっても修理してまた使える。そして見た目が無骨で格好いい。当たり前のことのようだけど、ずっと乗り続ける理由がたくさんありました。暑い日も雨の日も、今日もたくさんのベスパが働いています。

エンジンのカバーを外し剥き出しにして、どうだ俺のバイク格好いいだろう、と言わんばかりにエンジン音を響かせて走っている。

50年以上前から今も、そして明日もきっと同じ。当たり前にある風景は、誰かの思いと長い月日が重なってできた、そこにしかないものでした。