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「愛って、行動せずにはいられない」。歌人・上坂あゆ美が選ぶ、愛の映画『ブリグズビー・ベア』

愛の映画を語る時、その人が理想とする愛の形が見えてくる。歌人、エッセイスト・上坂あゆ美さんに聞いた、愛と映画の話。

text: Ayumi Uesaka

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愛って、行動せずにはいられない

「以前は短歌をやっていると言うと、それだけで変人のように思われていたんだよ」。先輩歌人に会うと、よくそのような話を聞く。私が短歌に出会った時はもうそのような雰囲気はなく、むしろ短歌を作っていることは「人と少し違っていてカッコいいもの」みたいになっていた気がする。

仮に今、「短歌やってるなんてダサい」という風潮が蔓延していたら、私は短歌を作っていただろうか。さらに、例えば自分がインターネットのない無人島に飛ばされて、誰からの反応も得られない状況だったとして、それでも私は作品を作るのだろうか。承認や称賛を得るための手段として短歌を利用してはいないか。そういう考えに頭が支配されそうになった時、いつもこの映画のことを考える。主人公のジェームスはいつだって自分の「好き」や「作りたい」気持ちに真っすぐで、そこに社会や法や人の顔色は関係ない。社会的地位や関係性に関わらず、親だって友人だって刑事だって誘拐犯だって、対等な作り手として、人間として見ている。一応作中では、ありのままのジェームスが家族や友人に認めてもらえたことで物語が進んでいき、それも確かな愛なのだけど、ジェームスが持つ『ブリグズビー・ベア』への愛と熱量に比べたら、もはやそれらは瑣末なことにも思える。

こんなに真っすぐに作品を愛し作ることができたら、どんなに素晴らしく、気持ち良く生きられることだろう。

教育番組『ブリグズビー・ベア』だけを観て育ち、その世界の研究に没頭する25歳の青年ジェームス。小さなシェルターで両親と3人で暮らしていたが、ひょんなことから外の世界に連れ出され———。監督:デイヴ・マッカリー/出演:カイル・ムーニー、マーク・ハミル、ジェーン・アダムスほか。

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