ゲームクリエイター:〈ミレニアムキッチン〉綾部和
思い出のゲーム
ほとんど無音なのに、敵の接近で電子音が。没入感が心地よい!
音楽が流れ続けていない、静寂を味わうゲームが好きなんです。聞こえるのは環境音くらいで、ここぞという時にやっと曲が流れる作品です。1991年にデータイーストから発売されたPCエンジン用ソフトの『サイレントデバッガーズ』は、宇宙ステーションに侵入したエイリアンを掃討するゲームなんですが、静寂が支配する船内を一人ぼっちで探索します。
敵が近づくとピンピンと電子音が鳴る緊張感がたまらない。ゲームの世界に入りすぎて、自分がいるリアル世界の部屋が日没で真っ暗になっていることにも気づかなかったり。そんな強烈な没入感は、静寂を味わうタイプのゲームならではのものかもしれません。
だから『ぼくのなつやすみ』(以下『ぼくなつ』)では最初から音楽は必要最小限。今のオープンワールドのゲームでは当たり前ですが、必要な時のみ、プレイヤーの気持ちに寄り添う感じでBGMが流れます。
『ぼくなつ』も『なつもん!20世紀の夏休み』(以下『なつもん!』)も、非日常での滞在生活を楽しんでもらう「滞在生活シミュレーター」なんです。居心地のよさや世界をどう感じるかという部分で、音楽の力はとても大きい。だからこそ流しっぱなしにはせず大切に使う方針です。音を磨くと世界にツヤが出るんですよ。
それはビジュアルも同じ。プレイヤーは現代人なので、記号的な田舎に寄せるより洗練されたデザインの方が世界にツヤが出るんです。だから『ぼくなつ』はイラストレーターの上田三根子さんにお願いしました。上田さんは雑誌『オリーブ』などでイラストを描いていた方。
大人は一見ポップで等身が高めですが、立ち方や着こなしがうまくてそう見えるので、実は日本人的な等身だったりする。おしゃれな服も着られるし、カラオケでマイクを持っても違和感がない。つまりおしゃれなのに日常と隣り合わせなんです。それで確信を持って上田さんにお願いしました。『なつもん!』のヒョーゴノスケさんも同じです。野山の描写は、北海道の田舎で育った原体験が大きいですね。
あと、僕は音楽が好きなんですが、最初の『ぼくなつ』制作時はテクノとかトランスの野外パーティが多かった時代なので、毎週末、関東や中部の山奥やキャンプ場に行ってたんです。その時の経験も、ゲームの中に生きているかもしれません。