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Awichのニューアルバム『Queendom』。ヒップホップの世界を照らす、クイーンの覚悟

沖縄で育ち、2PACでヒップホップに開眼。19歳でアトランタに留学し、アメリカ人男性と結婚して長女を出産。しかし、夫は銃弾に倒れてしまう。Awichの音楽には、その壮絶な半生が生々しく刻まれている。帰国後、音楽活動を再開すると、ヒップホップクルーYENTOWNに所属。2020年にメジャーデビューを果たし、AIやKIRINJI、RADWIMPSの楽曲に参加するなど活動の幅を広げてきた。3月には待望の新作、『Queendom』が発売される。約2年を経て完成した、波瀾万丈な一枚だ。

Photo: Houmi Sakata / Text: Neo Iida

「実は去年の春には完成してたんですけど、バラして作り直したんです。当初できていたのは、私のムードを詰め込んで、アーティスティックにまとめた一枚。メジャー2枚目だし、歌モノもウケるかなとポップな楽曲も入れて。でも(BAD HOPの)YZERRと話したときに、“ちゃんとヒップホップしてください。みんなAwichさんがラップで男たちをかますのを見たいんです”と言われて、マジ?見たいんだ?って。それで覚悟を決めて」

当初のアルバムタイトルは『KAZAANA』。「ヒップホップの世界に風穴を開ける」という強い気持ちを込めたが、自らの立ち位置を明言した言葉ではなかった。

「それまで“クイーンなんて言えない”って思ってた。大きなことをしたい半面、叩かれたくない、恥かきたくない、って。でもだんだん“これは私がやることなんだ”と思えるようになりました。特に去年のツアーでは、コロナ禍でもライブミュージックを体感してもらうために、私は私のやり方でライブを続けようと思った。ガイドラインをガチガチに設けて、チームと連携して。王国を作るからには、責任もとる。みんなクイーンはすごいって言ってくれるけど、内心は“仕事、デカッ!”みたいな(笑)」

女王は女性としての発言を求められがちだが、眼差しはあらゆる者へと向けられている。

「『口に出して』は、女性が性的な主張をしてもいいじゃんって曲。それがタブーとされる社会は古いし、欲しいものを欲しいと言う選択肢は誰にでもある。男にも負けないし、ていうか男とか女とかまだ言ってんの?って。私はみんなのことを考えてるし、その居場所を確保するのがクイーンだと思うから」

3月には初の武道館公演を控えている。

「田舎者で、子持ちで、夫を亡くしていて。でも武道館まで来られた。頑張れば、覚悟を決めればなんでもできる。勇姿ってほどじゃないけど、色んな人に見てほしいです」