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アバターにも着心地は必要?衣服標本家・長谷川彰良とデザイナー・鈴木淳哉が考える未来のファッション

バーチャルの世界が当たり前になると、自己表現はどう変わるか。100年前の服作りを熟知する、衣服標本家の長谷川彰良と、未来を創造するデザイナー鈴木淳哉が、真剣に未来のファッションを考える。

Interview & Text: Keita Tokunaga / Edit: Keiichiro Miyata

Q1:子供の頃、何かに変身したいと思ったことはありますか?

鈴木淳哉

マリオに憧れて、改名を本気で考えた。

幼い頃からゲームやアニメのキャラクターが好きで憧れていました。幼稚園児の時には、マリオに改名したいと本気で願っていて、親に相談をしたことがあったほど(笑)。

キャラクターには、(ゲームの設定上)絶対的な役割と、存在意義があるのに対して、人間は曖昧で役割も決められていない。
だから、人間という存在でいることが不安だったのだと思います。人と話すのが得意ではなかったこともあり、言葉なしに社会の中でどうありたいか、その意思を提示できるファッションは、大人になるにつれて必要なツールになっていきました。

長谷川彰良

気づけば、父親の真似をしていた。

憧れや変身という感覚とは少し違うのですが、父親の影響が大きかったですね。家には、ミシンがあって、それに向かい何でも自分で作ってしまう父親で、かなり尖った服を作って着ていました。周りは田んぼだらけの田舎だったので、父親はかなり目立つ存在でした(笑)。

それもあって、私も近所の子供と比べると、割と早い時期から自分が着る服のことを意識し始めました。ある意味、もの作りの環境は整っていたので、小学3年生くらいで、ミシンに向かっていました。初めて作ったのが、たしかバッグ。そこから、もの作りにのめり込んでいきました。

Q2:テクノロジーによって、服作りはどう変わりましたか?

鈴木

服作りは格段に便利になったけど、発展途上。

バーチャルの世界でのファッションビジネスが発展しましたね。実際にサンプルがなくても3Dでイメージの共有ができることで販売の仕方も、服作りも、劇的に変わりました。

ただ、仮想空間上でアバターがカッコよく着こなしていても、現実世界では必ずしもイメージ通りにはならないことがある。リアルでは、人はビジュアルだけではなく、素材感など様々な情報を総合して、“いい服”と判断しています。

それを踏まえて、デザイナーとして、まずリアルで“いい服”を作ってから、アバターの着る服へ、という流れは今後も保ちたいです。

長谷川

エンタメから安心に変わった。

過去を知ることで、未来を予測できることがあります。例えば、19世紀のパリ万博時代。そこに並ぶ高級服は、表にミシンのステッチが剝き出しになっていて、分解してみると、内側はすべて手縫いで作られています。今では考えられない仕様でした。

それは、当時ミシンが最先端だったから。つまりテクノロジーは、あえて見せつけるエンタメなんです。だから手縫いよりもミシンで作られた服の品質に、人々は安心感を覚えました。

同じく現代の3Dスキャンによるアバターの試着も、リアルと遜色なく安心材料になる時代が、もうすぐそこまで来ている気がします。

Q3:服を作るうえで重要視していることは何ですか?

鈴木

自分らしくいるための着心地と居心地。

現代の生活にコミットするため、機能性を含めた着心地に加え、その向こう側にある居心地のよさも重視しています。

それは、気持ちに作用するところが大きく、自分が自然体でいられて、高いパフォーマンスを保てる状態が、居心地のよさにつながると思っています。

その役割を果たすのが服の本質でもある。自分が理想とする姿でいると、心が軽やかになるといった環境を創造することも、現代のファッションデザイナーに求められることだと考えています。それは仮想空間でも同じ。
この考えをバーチャルの服にも投影できたらファッションは豊かになる。

長谷川

動いている時に心地いいパターン。

この90年間の服は、私はすべて同じに見えます。現代人は、動きやすさを求めて、軽く、柔らかく、伸びる生地を求めますが、100年前の服を着ると、硬く、重く、伸びない生地なのに、動きやすい。

昔の乗馬ジャケットのパターンは、姿勢としては、パソコンに向かう現代人に適応します。着心地の再定義こそ、100年前の服を知る私の使命だと感じています。

動いている時に心地いいパターン

Q4:アバターにも着心地は必要でしょうか?

鈴木

リアルの着心地とは違う解釈の“居心地”が必要。

ある時知人が作ったアバターを借りてプレーしたらしっくりこない経験をしました。居心地の悪さは着心地の悪さにつながると考えると、アバターの世界でも「肌に合わない」感覚があると思う。

長谷川

私は不要だと思います!

体形や外見、性別など人間を構成する要素を取っ払うことができるのがアバターです。そこに着心地は関係ありません。

ただ、VRショッピングの際、画面上でストレスを感じている部分をボディに表示するなど、視覚的に着心地を情報として伝えられると、面白いですね。

アバターにタイトなシャツを着せたら、胸や肩部分に横方向に突っ張ったシワが入ったり、ゆったりした服なら脇から縦方向に落ちるシワが入るなど、情報の一つとしてシワを可視化することで、“自分の体形に合うか?”と確かめられます。
浸透すれば、安心して服を買うことができますね。

Q5:さらに先のファッションはどうなっていくでしょう?

鈴木

現実と仮想を行き来する。

高い服を買って、なかなか現実で着る時間がなくても、別次元でアバターも着ることができれば、その服をもっと楽しめますよね。きっと、現実でもバーチャルでも服をシェアする世界になっていく。

アバターにも着心地を
現実でもバーチャルでも服をシェアする世界になっていく

長谷川

自分で服を作る、そんな時代が来る。

私は、製作したパターンの著作権をすべて放棄しています。それは、100年前の服の感動を多くの人に体感してほしいから。さらにテクノロジー化が進めば、自分で容易に服を作れる時代がやってくる。

製作したパターンの著作権をすべて放棄