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NY州郊外の村で生まれた、のどかなフォルム。〈オーロラシューズ〉との30年回想録

自由でおおらかなフォルムの〈オーロラシューズ〉がニューヨーク州北部の小さな村から日本へやってきて30年が経ちました。日本に紹介した立役者〈SUNSHINE+CLOUD〉の高須勇人さんに、これまでとこれからについて話を聞きました。

photo: Yoko Takahashi / text: Akihiro Furuya

まだコンフォートシューズというカテゴリーがない頃、〈オーロラシューズ〉はニューヨーク州郊外ののどかな村で誕生した。〈SUNSHINE+CLOUD〉代表の高須勇人さんは、そのオーガニックなフォルムをひと目見て惹かれたという。大きなナイロンバッグに詰め込んで、日本で紹介したことからストーリーは始まる。あれから30年。高須さんが語る〈オーロラシューズ〉のNOW & THEN。

コンフォートシューズという
呼び名すらなかった1993年

僕の場合、〈オーロラシューズ〉とビーサンがあれば、ことは済むんです。葉山ではたいがいはビーサンで過ごしていて、オーロラを履くときは“オフィシャル”です。お店に立つ日とか、ちょっとすかしたごはんに行く機会とかね。最愛のよそ行き。もう30足くらいは履きつぶしたかな。〈オーロラシューズ〉は「MIDDLE ENGLISH」モデルしか履かないんですけど、最近出た、スウェード〈ナチュラル・ラフアウト〉もいいなと思ってます。短パンにはこっちのほうが合わせやすいかも。

〈オーロラシューズ〉を初めて見たのは1993年のことで、まだ葉山の〈SUNSHINE+CLOUD〉をスタートする前でした。NYのソーホーに〈J Morgan Puett〉っていうイカしたお店があって、そこで働いていたロバートという友人が履いていました。丸みを帯びたフォルムは、いままでに見たことがないくらい、自由でおおらかな印象でした。「サーファーたちも素足ではいているから、HAYATOのお店にも合うんじゃない?」とロバートが薦めてくれたのが出会いでした。

それから30年、当時はコンフォートシューズって名前さえもなかった時代で、僕はその頃、〈ビルケンシュトック〉の「ボストン」を履いてたんだけど、やっぱりサンダルっぽいじゃないですか、その点〈オーロラシューズ〉はモカシンとローファーの間みたいなので、いろいろな服にも合わせやすかった。

いかにもフォークソングが
似合いそうな、のどかな村

ほとんど一目惚れですね。すぐその年に、あらかじめオーダーをしてオーロラの村を訪ねました。ニューヨーク州の北西部、ケユーガ湖に寄り添うように佇む小さな村で、郵便局が入っている古いビルの2階に〈オーロラシューズ〉の工場はありました。工場というか、作業場ですね。

ジョーン・バエズとかジョニ・ミッチェルとか、女性のフォークシンガーの曲がいかにも合いそうな場所でした。まさに靴のイメージ通り。そうそう、近くにウェルズ・カレッジというリベラルアートの大学があるんですが、地元で作られる〈オーロラシューズ〉は非公式な制服として学生たちにも愛されているんです。

黒い大きなナイロンバッグに目一杯詰め込んで、日本に持ち帰ったんですが、ここまで売れるとは思わなかったですね。95年くらいでしたか、スタイリストの岡尾美代子さんが雑誌『オリーブ』のニューアイテムページ「フラッシュ・アップ」で、清水美樹子さんが『アンアン』の「アンテナ」で紹介してくれたら、一気に火がついちゃって。

工場にはファックスさえもなかった時代だから、毎晩、夜中にオーダーの電話していました(笑)。その後、雑誌『クウネル』で、岡尾美代子さんがまた取り上げてくれたら、さらに加速して、2年待ちくらいになってしまったんですよ。クラフト感が時代にマッチしたんでしょうね。

さまざまなブームを経て、
いまは3周目くらい

ナチュラルなムードが最初で、そこからほっこりのテイストになって、今年で30年。いまは3周目って感じです。今回、ひとつの区切りとしてビジュアルブックを作ったんです。オーロラシューズの今までを追想し、これからをイメージしようと、オーロラ村→ロサンゼルス→モントレー→サンタクルーズ→サンフランシスコと巡りました。一緒に旅をしながら写真を撮ってくれたのは、過去にも〈オーロラシューズ〉を取材をしたことがあるフォトグラファーの高橋ヨーコさん。最後は、葉山に帰ってきて、新たなイメージでファッションシューティングに挑戦したんです。

モデルとして登場いただいたモトーラ世理奈さんが「かわいい」って反応してれたのは、ちょとした驚きでした。それぞれの世代で想起する新しいイメージがあるんですね。なのでビジュアルブックではあえてパンクっぽいテイストにしたり、スーツに合わせたりと、新しい見え方を意識しました。いままでは十分ほっこりでしたからね(笑)。

〈オーロラシューズ〉の場合、30年で7タイプ。ああいう、のどかなところでやっているから、彼女たちにとって新しさは必要ないのかもしれませんね。ただ、履く人たちは違うんですよね。カットオフしたオーバーオールや、スケスケのカモフラージュのジャケットに合わせたり、僕らが意図しないところで、それぞれの感覚で反応するんです。時間とともに「自分だけの靴」となっていく〈オーロラシューズ〉のよさは、履き心地だけじゃないんです。