自分を操る“自分”が、表現者・森山未來を生み出す
「さまざまな映画や舞台作品に関わる中で、身体を用いた表現には何が必要か。そういったことで、20代前半は悩むことがありました」
そんな時に出会ったのが、コンテンポラリーダンスだったそう。
「ダンスの一スタイルというよりは、その概念に興味を持ったのがきっかけでした。既存の表現に縛られず、型にハマらない新しい身体を模索していく行為。そう、“コンテンポラリー”という言葉を捉えています。それを実践するうえで非常に重要になるのが、メンタルをどのような状態に置いておくのか。これが単純な身体能力の向上よりもずっと、豊かな表現に直結すると考えています。
それぞれの表現の場において、与えられた状況の下、自然と反応するような身体でいること。この気づきがなければ、表現者としての歩みは大きく変わっていたと思います」
森山さんにとって重要な、どんな時も心身を安定させること。ただ、それは“整える”とは似て非なるものだという。
「演じる役は何か。それは身体的要素が重要視される場か。映画や舞台など、どういった環境下で行われるものか。そういったことによってだけでも、事前の準備が毎回変わってきます。ましてや、日々さまざまな出会いや経験によって“自ら”の考えが更新されていく中で、心や体を落ち着かせる“居場所”も日々変容していくのが常。だったらいっそのこと、(整えるという考えは)捨ててしまった方が過去の自分に縛られずに、その都度、“今が整う”のではないかと考えています。
でき得る限り、自由に自分を解放できるように最低限の心のメンテナンスをすること。日課というほど毎日ではありませんが、ヨガ、自重トレーニングなどを掛け合わせた独自のストレッチを生活に取り入れています」
人から見られる意識の中に、“整える”の本質がある
もう一つ、森山さんが大切にするのが、“自分らしさ”の本質とは何かということ。
「哲学者の鷲田清一さんの本『〈ひと〉の現象学』に感銘を受けたことがあります。ちょっと哲学的な話になりますが、自分自身がどんな人間であるかは、自らが評価できるものではなく、それを見る人に委ねられているのだな、と。その人のあるべき姿に戻ることを“整える”と仮に呼ぶのなら、どこに立ち返るべきか判断するのはとても難しいこと。そういう意味で、我々が社会という集団で生きていく以上、自分を整えることと、人との関係性を整えることはかなり等しい関係にあると感じます。誰かと繋がっていることをどう自分の中で噛み締めているのか。それがなくなってしまった時には自分もへったくれもなくなってしまう気がしますね」
他人の中に映る自分の姿を客観視することが、“表現者・森山未來”を憑依させるスイッチになる。
「こんなふうに(自分の)後ろに目がある感覚で動くことを意識したりもします」と言うと、何かに取り憑かれたように目つきが変わった。これが、表現を始めるうえでの基本姿勢みたいなものなのだそう。
「あくまで、“こういうパフォーマンスをしよう”と自分よがりにならないように客観的な視点を働かせるイメージです」
職種問わず、この考えは多くの人に共通することだという。
「整えるという言葉の代表格である、身だしなみにおいても、やはり誰かに見られているという意識の中でしか必要とされないものですよね。だから、整えるという行為は自分以外の人との在り方そのものだと思うんです。さまざまなものに刺激を受けて常に自分を更新してきましたが、この感覚は10年後になっても変わらない気がします」
MY STYLE 周りを見渡し、自分を見つめる、2つの目を持つ
「まるで自分以外の何かに体が動かされているよう」と感じるほど、自らのことを客観的にコントロールする。
「ほら、こうやって」と言いながら、集中するとあっという間にこの表情に。
「後ろに目がある感覚で、自分の内と外に意識が半分ずつあるような意識です。作品は、見せる側と見る側がいて成立すること。自分のエネルギーをぶつける独りよがりな表現は、理想ではありません。その瞬間、その瞬間に何を感じているかを伝えていきたいです」
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「仕事柄、見られる意識とは切っても切れない関係なので、日頃から身だしなみは意識しています」という森山さんにもぴったり。2,860円(オーガー/貝印)