次世代の“原石たち”の
果敢なチャレンジの場として
現在、オーディオドラマのルネッサンスが起こっていると語るのは、オーディオドラマの脚本を30年以上書き続けているラジオドラマ脚本家の北阪昌人さん。
「ここ5年ほどで、スマートフォンがほとんどの人の手に行き渡ったことが大きなきっかけだと思います。これは1人1台ラジオを持っているのと同じことですから」
ラジオを手軽に聴ける環境ができたことで、今までラジオを聴いたことがなかった人たちにも音声コンテンツが身近になったのだ。
ラジオを聴くのに完璧な環境が整ったからこそコンテンツのクオリティを高めることで、この盛り上がりを根づかせていきたいと北阪さんは言う。映像作品に比べて制作費も安く参入しやすいというメリットもあるため、オーディオドラマの制作現場は今、若手の作り手が活躍する舞台にもなっている。
「オーディオドラマの出演者は劇団の団員が演じるというのが、従来の通例でした。しかし現在、その出自はいろんなジャンルに広がっていっています。アニメで活躍する声優さんは若い方たちに人気がありますし、ミュージカル俳優も多数活躍しています。彼らは演技もできて、歌も歌える。声で勝負するこのジャンルで強みを生かしています」
もちろん書き手にとっても、オーディオドラマは注目の現場。北阪さんが教鞭を執るラジオドラマ脚本セミナーの受講生も年々増加している。また北阪さんは、若手の脚本家の入口を広げるため講義にコンペを取り入れて脚本を募り、自身が監修を務めるPodcast『ラジドラBOX』に生徒を積極的に起用している。
「小説や映像の脚本を書きたいという生徒にも、音だけで想像させるオーディオドラマの脚本を書く経験は必ず強みになると教えています。昔ながらのラジオドラマに触れてこなかった層だからこそ、尺や構成など従来のセオリーといわれていた暗黙のルールを飛び越えた突飛な発想の提案がよくあるんです。それを否定してしまうとコンテンツの成長はない。長い歴史のなかで育まれてきたノウハウは大切にしつつ、フレッシュな発想を取り入れることで可能性を広げていきたいと思っています」
出演者も新人俳優を起用し、新しい番組作りに挑戦している。
ラジオ放送やPodcastでの配信だけでなく、CMにオーディオドラマが使われることも多い。エンターテインメントに限らず、多岐にわたる活躍の場があり可能性に溢れているのがオーディオドラマなのだ。若い作り手の熱気を感じるこの現場から、未来のスターが生まれる日も、そう遠くはないだろう。
監修の北阪さんと、コンペティションで選ばれた脚本家、俳優の卵たちで作るラジオドラマ専門Podcast。コメディ、サスペンスなど多ジャンルが揃う。各話のビジュアルはイラストレーターとのコラボレーションで制作。フレッシュな才能の発掘の場となっている。
北阪さん注目。オーディオドラマの
未来が垣間見える番組
ミュージシャンの平原綾香さんの番組。毎回北阪さんが脚本を書いたラジオドラマが放送される。リスナーから募集したテーマや、平原さんの楽曲をモチーフにし平原さんとゲストが演じる。「楽曲の世界観から物語を紡ぐことで、また違った曲の楽しみ方ができます」
本の朗読や音声ドラマを配信するオーディオブックサービス。SEを入れないシンプルな作り。『銀河英雄伝説』や、SF作家の海野十三の絶版になってしまった作品も聴くことができる。「朗読も音声コンテンツの大事な核となっていく」と北阪さんは予想している。
お笑いコンビ〈しずる〉の村上純が、ゲストと一緒にラーメン店を紹介する番組。実際にお店でラーメンを食べる様子を音声でお届け。「この臨場感が、まさしくオーディオドラマ。作り込んだ音ばかり聴いていると、こういうリアルな音こそ心地よく聞こえます」