徹底的な音作りによって
深い没入感へと誘えるように
オーディオドラマ躍進の発端は、アメリカでのPodcastブーム。
2014年に『Serial』という実際にあった事件の真相を追うドキュメンタリー番組が大流行し、Podcastが一気に人々の暮らしに浸透した。
人気番組が続々とリリースされる中、筆頭コンテンツがオーディオドラマ。「眠りにつくまで、ベッドのなかで」という聴取スタイルと合わせて根づいたという。この状況に注目したのがTBSラジオ。日本でも、インターネット配信とPodcastを軸に展開すればオーディオドラマが日常生活に組み込まれるのではと仮定し、“音が導く想像の世界へ”をコンセプトとする配信プログラム「Audio Movie®」を2019年にリリースした。
「ラジオの聴取方法はここ数年で変わってきています。スマートフォン、ノイズキャンセリングヘッドホンなどのデバイスの進化、ラジオもモノラル音声からステレオへ変化するなど、高品質な音を手軽に聴く環境が整ってきました」と構想段階から関わる加藤哲康さん。
「Audio Movie®」はこの環境進化を大いに利用し、臨場感のあるサウンドを追求した。音の遠近感までもが反映され、自分が現場に居合わせているかのようなリアルさ。
また、元来音声コンテンツの良さは、別の作業をしながらでも「ながら聴き」ができる点にあった。しかし「Audio Movie®」が進む方向はその逆。徹底的な没入感によって、聴き手をあえてしっかり作品に向き合わせるように演出している。
「認知科学に基づき、音を聴いて想像力が広がるサウンド作りを徹底しています。例えば、ナレーションを多用しないことも特徴の一つ。従来はシーンを説明するために使用されますが、主人公とリスナーの感覚を同期させ当事者感覚を持ってもらうため、極力音だけで状況が伝わる作りを意識しています」
そして、キャストも声だけで演技をするのではなく、実際に体を動かして音声を収録している。「『Audio Movie®』内のホラーコンテンツ『令和版・夜のミステリー』では、スタジオ内外で演技してもらいピンマイクやガンマイクで声を録りました。
テントのシーンでは実際にテントを張りましたし、TBSの機材倉庫で真っ暗闇のなかでの収録も。キャストに物語と同じような体験をしてもらうことや、そこで聞こえる音を拾うことでリアリティや臨場感を追求しています」
これまでに配信した作品にはミステリーやサスペンスが多いが、今後は恋愛ドラマや歴史ものも配信する予定。この取り組みが、いずれはラジオ全体のコンテンツ力の底上げにもつながっていくのかもしれない。
TBSラジオのオーディオドラマブランド。2020年に配信したドラマ『半沢直樹』のスピンオフ『半沢直樹 敗れし者の物語』は延べ80万人以上が聴取。『つけびの村 by AudioMovie®』や三宅隆太監督の『令和版・夜のミステリー』など話題作を次々と発表。
オーディオドラマ躍進の先駆け
アメリカ発の人気番組
8,000万回のダウンロードを記録したPodcast番組ブームの火つけ役的な番組。元新聞記者のサラ・ケーニッヒが事件の真相を調査するドキュメンタリーシリーズ。シーズン1で取り上げた殺人事件では、実際の裁判の結果にまで影響を及ぼしたといわれている。
アメリカではPodcast番組とキャラクタービジネスのコラボレーションも盛ん。こちらは、マーベルコミックの大人気ヒーローであるウルヴァリンのPodcastドラマ。主人公のローガンの声は、俳優のリチャード・アーミティッジが担当している。シーズン2まで制作。
映画化もされたミュージカル『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』のジョン・キャメロン・ミッチェルが主演、脚本、演出を担当したPodcast版のミュージカル。グラムロックが響くロックオペラ。Podcastアプリ「Luminary」(日本では未リリース)で配信。