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世界中で爆笑をさらうスタンドアップコメディアン。アツコ・オカツカ、その原点に迫る

ワールドツアーを行い、世界中で爆笑をさらうアツコ・オカツカが、7月に来日した。日本人と台湾人の両親を持つ彼女は10歳でアメリカに渡り、やがてスタンドアップコメディアンに。自身の“誘拐”や摂食障害の過去、日本というルーツを笑い飛ばすアツコは次第に脚光を浴び、老舗放送局HBOでは冠番組を持つに至る。これはアジア系女性コメディアンとして史上2人目の快挙だ。今回、ソールドアウトとなった来日公演直前の楽屋に伺い、話を訊(き)いた。

text: Kazuaki Asato / translation: Hibiki Mizuno

スタンドアップコメディの今を知っているか?

アツコ・オカツカ

メイクしながらの取材で、ごめんなさい(笑)。

——こちらこそ本番前に押しかけてしまいすみません。近年、アジア系コメディアンの活躍が目覚ましいです。しかし日本をルーツに持つプレーヤーは、なかなか現れなかった。そこに颯爽と登場し、全米で人気を獲得したアツコさんに興味を惹かれました。HBOでの冠番組も成功させましたね。

アツコ

ありがとう。この番組は日本で観られないんですよね……。でもワールドツアーも好評なので、次のスペシャルは世界中で視聴できる予定です。それまでもう少し待っていてください。

——楽しみです!今回の来日では2日間にわたってショーをされました。

アツコ

3月にも来たので、またすぐ東京に戻ってこられました。英語を勉強してコメディにも興味を持つ日本人のお客さんがたくさん来てくれたみたいですね。

——とはいえ、まだまだ日本人にとってスタンドアップのライブはハードルが高いです。どんな心構えでショーに行けばいいのでしょうか?

アツコ

面白かったら、周りを気にせず思いっきり笑う。それだけで大丈夫です。あなたが笑えば周りも釣られて笑いだすし、コメディアンも救われますよ(笑)。

スタンドアップコメディアンのアツコ・オカツカ。 photo:Lee Jameson

転機にはいつも祖母の存在?

——あなたのルーツを教えてください。10歳の頃、祖母に半ば無理やりアメリカに連れていかれたそうですね。今でこそアツコさんも「あれは誘拐だった」と笑いにしていますが、結果的には何年も不法移民として過ごさなければならず、複雑な思いを抱いていたはずです。

アツコ

おばあちゃんは精神的に不安定だった母から私を守るために渡米しました。でもそのとき嘘をついたんです。最初は「2ヵ月だけ」と言ったのに、結局7年も不法滞在させられたんですから。日本に帰れないとわかっても現実を受け入れるのは難しかった。アメリカで生きることを覚悟し、日本語で話すのもやめ、英語を覚えました。あの頃は生きるのに必死で、コメディアンの存在も知らないし、将来の夢も考えられなかったな。

——アツコさんは、著名なアジア系コメディアンであるマーガレット・チョーを偶然知って、憧れたそうですね。

アツコ

そう。私と同じような顔立ちの人が、話術だけで人を笑わせている光景に感動しました。でも、私が10代の頃は全米で有名になれるコメディアンは数えるほど。ましてや「アジア系コメディアン」は1人で事足りる時代でした。

——ところがコロナ禍になって、あなたはブレイクを果たします。

アツコ

きっかけは、祖母と一緒に撮った動画でした。私がビヨンセの曲に合わせて腰を落とす「ドロップチャレンジ」です。あと、ショーの最中に地震が起こったときのパフォーマンス動画ですね。今はSNSや動画サイトで大勢に知ってもらえる。面白ければ、テレビに出なくても有名になれて、自分のコメディを見てもらえる。この環境はコメディアンにとっても、お笑い好きの人たちにとっても好ましいですよね。

みんなどこかおかしい

——なぜ多くのアジア系コメディアンが有名になったんだと思いますか?

アツコ

プラットフォームが充実したおかげで、色んな人に光が当たりましたね。でも同時に、コロナ禍や政治的危機などに直面した人々が、笑うことで辛い現実を一瞬でも長く忘れたいと願ったことも要因だったと思います。コメディアンって危機の時代にこそ求められるでしょ?

——たしかに。なぜ人は、シリアスな事態に直面しても笑うんでしょうね。

アツコ

笑うことで「自分は孤独じゃないんだ」と感じられるからかな。私自身、自分のジョークで笑いが起こると「こんなふうに考えるのは私だけじゃないんだ」

と安心します。そういう繋がりは観客同士も感じているはず。みんなで笑いながら「私たちってちょっと変だよね」と確かめ合って、安心してるんです。

——ご自身のコメディに日本的な要素は入っていると思われますか?

アツコ

私の笑いは日本的だと思います。日本のお笑いって動作や視線が重要ですよね。それに難しい言葉もあんまり使わない。その点で私のコメディは日本的です。あと、カートゥーンっぽいかも。

——アニメですか?

アツコ

そうそう。私はいつも同じ髪形で、忙しなく動いてるでしょ?(笑)私のベースには日本とカートゥーンがたしかにあるんです。でも、それだけじゃない。アジア系アメリカ人、女性、移民、既婚者、うっかり者、コメディアン、元喫煙者……そういったいくつもの要素が混ざり合って、アツコ・オカツカのスタンドアップが作られているんです。

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