──何度も一緒にお仕事をされていますが、お互いにどんな印象がありますか?
麻生久美子(以下、麻生)
子供の心のまま大人になったような方。ピュアでキラキラしたものが横浜さんの中に常に見える感じがあります。
横浜聡子(以下、横浜)
すごく恥ずかしいですね。
麻生
監督としての経験を重ねても、それが全く消えないのがすごい。
横浜
麻生さんと最初にご一緒したときはお互い20代で、同じ年なんですけど、現場ではかわいくて、はつらつとしていて、お姉さんみたいにいつも支えてもらってました。白鳥みたいな存在ですね。
麻生
そ、そうですか?(笑)
横浜
空気がスッとするし、映画のリズムを作るのも麻生さんなので。お人柄もお芝居も、現場で作り手が求めるものに忠実で誠実なので、味方をしてくれていると感じるんですよね。一字一句セリフを変えないのも、それだけシナリオを信頼してくれているからだろうなと。だからこそ、緊張感もあるんですけど。
麻生
ありがとうございます。変な声出ちゃった(笑)。この映画の怪しい人たちは、横浜さんが大人をこう見てるということかなと思いました。どうですか?
横浜
そうです。でも、麻生さんが演じた寿美子さんは怪しくない。謎は多いけど。

麻生/ジャケット67,100円、ブラウス45,100円、スカート参考商品(以上スズキ タカユキ TEL:03-6419-7680)、その他スタイリスト私物
──同居する奏介と寿美子の関係も明かされませんが、麻生さんから横浜さんにそういった質問はされないんですか?
麻生
自分からは聞かないです。聞いたら、きっと答えてくださったと思うけど。
横浜
「奏介が寿美子さんを“お母さん”と呼ぶことは一度もないですよね」と、麻生さんと奏介役の原田琥之佑くんに伝えたら、それで2人が納得してくれたので。「親子」と言ってしまうと、観てる側も安心してそこに居座っちゃうかなと思って。
麻生
本当にそう!こういう言葉選びが好きなんです。寿美子さんはチャキチャキした人というヒントはもらっていたけれど、最初は、原作の絵の印象に引っ張られてしまっていて。やってみて、明るくした方がいいかなと思い、横浜さんに聞いてみたら、「そうですね」と言ってくださったんです。
その後、「猫に嫌みな感じでお願いします。色々小出しにしてすみません」と加えてくる感じも、横浜さんらしくていいなと(笑)。
そうやって、寿美子さんを人間らしくしてもらいました。

──原作の持つどこか不穏なムードが、そのまま映画になっていると思いました。
横浜
私は三好銀さんの漫画の大ファンなんですが、日常生活が描かれてるように見えて、どこか不安定さ、安心できない何かが潜んでいる。それが作品の面白さだし、そこにやりがいを感じました。
麻生
私も原作にある不穏感にドキドキしながら読み進めましたが、横浜さんの脚本からも、不思議なぐらい、同じ空気感が流れていると感じました。でも、横浜さんの映画は、いつも脚本以上のものが出来上がってしまうので。本当に失礼なことを言いますが、脚本はガイドのような存在で、完成したものですごく印象が広がるんです。
横浜
今回も、麻生さんに出てもらうからには、シナリオに書かれている以上の寿美子さんの何かを見せたいと思っていて、あるシーンの最後にお芝居を足してもらったんです。寿美子さんが眠っていて、奏介が帰ってきてまた出ていくという私がすごく好きな場面なのですが、「寿美子さんはもう奏介に会えないかもしれない」とお伝えしたら、麻生さんが奇跡のような素晴らしいお芝居をしてくださって。
麻生
そういう演出をしてくださるから、役者としては楽しくてワクワクするんです。
横浜
これまでの土台がある麻生さんだから思いつきますが、そうはいかない場合も多々あります。映画を作ってるときは、言葉にできないものを、ほかの形に移し変えているという感覚で。口べたですし、文章も特に書きたいわけではない自分が何で伝えるのかと言えば、映像しかないですから。
アーティスト移住支援をうたう、とある海辺の街。14歳の美術部員・奏介と、後輩の立花、先輩のテルオは、夏休みにもかかわらずもの作りで忙しく過ごす。そんな中、怪しげな大人から次々と不思議な依頼が飛び込んでくる。全国公開中。