音楽を通して社会を知る
現在、230作を配信中の映画配信サービス〈アジアンドキュメンタリーズ〉。映像作家でもある伴野智さんが太鼓判を押す作品というだけあって面白そうな映画ばかりだ。
そのなかから最初の一本に、と薦めてくれたのが『ソング・オブ・ラホール』。
「パキスタンの音楽家たちが伝統楽器でジャズに挑戦する過程を追った作品です。彼ら〈サッチャル・ジャズ・アンサンブル〉が演奏した『テイク・ファイヴ』は世界的に評判になって、ついにはニューヨーク公演も果たします」
明るいサクセスストーリーのようだが、一方で彼らがジャズに挑む背景には暗い歴史があった。
「パキスタンは1970年代にイスラム原理主義国になりました。当時は音楽が禁止になり、聞き手も減少。そこで、新たなリスナーを求めてジャズ界に打って出るのです。音楽を楽しみつつ、社会についても考えさせられる素晴らしい作品です」
同じく考えさせられた作品に『マイ・コイと反逆者たち』も。
「マイ・コイは“ベトナムのレディー・ガガ”と呼ばれるほど国民的人気を誇る歌手でした。しかし次第に活動家になっていくのです。その理由はベトナムの一党独裁に疑問を持ったから。絶大な人気を誇る音楽家と政治権力の闘いを描いています」
政府の監視の目をくぐり抜けて行われたシークレットライブの様子は鳥肌モノ。ベトナムを巡る歴史を知っている“つもり”だったことを思い知らされた。
旅情溢れるディープな音楽探訪
もちろん、グループやアーティストを追う作品だけではない。地域の音楽をディープに掘り下げた作品だってある。
「マニアックすぎるくらいマニアック」と教えてくれたのは『ザ・シンフォニー・オブ・イラン』。イラン各地の民族音楽を捉えた一作で、カバーするエリアはパキスタン国境近くのホラーサーン州からトルクメン・サフラ、ミナーブまでのイラン辺境8地域。確かにこれはマニアックだ。
「現地の音楽を体感できるのは映像ならでは。意味がわからなくてもすごいなあ、と感じられるのは音楽の面白いところですよね。旅情も半端じゃないんです」
同じくトリップ感がある作品にタイの『Y/Our Music』を教えてくれた。こちらは農村から都市まで、綿々と連なるタイの音楽シーンを一望できる。
日本にこんな音楽があったのか!
アジアには知らない音楽がたくさんある。日本だってそうだ。尺八の存在は知っているけれど、カリフォルニア生まれの師範がいることは知らなかった。最後に紹介してもらったのは、そんな彼、ジョン海山ネプチューンを描く『海山 たけのおと』。
「尺八作りはもちろん、ジャズに挑戦したり得意のサーフィンをしながら(!)演奏したり、常識を超えて新しいことにチャレンジするんです。尺八自体の見方も変わりましたね」