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『美術手帖』岩渕貞哉×キュレーター・山峰潤也が語る、次を生み出すクリエイター 〜後編〜

近年、国内外の現代アートのシーンは、どのように変化し、成長しているのか。『美術手帖』の総編集長・岩渕貞哉さんと、キュレーターでアートコンプレックス〈ANB Tokyo〉の運営に携わる山峰潤也さんに、世界的なアートの動向、ゲームチェンジャーになり得るアーティストについて話してもらった。前編はこちら

text: Asuka Ochi / cooperation: Sayuri Kobayashi

日本のマーケットは、
かつてない盛り上がり

山峰潤也

国内でも、ゲルハルト・リヒター展に多くの人が訪れたり、『瀬戸内国際芸術祭』や『大地の芸術祭』『リボーンアート・フェスティバル』などが同時期に起こったり、アート周辺の動きは盛んですね。

『あいち2022(旧・あいちトリエンナーレ)』の芸術監督がキュレーターの片岡真実さんに代わって、現代アート界で影響力のある人々が相当数、日本に集まりました。恵比寿ガーデンプレイスで行われた『MEET YOUR ART FESTIVAL 2022』が、3日で3万人を動員したのも印象的でしたね。

日本のマーケット自体も動いているし、『フリーズ・ソウル』や『アート・バーゼル』のような海外のアートフェアに、日本のコレクターが集まるようにもなりました。一方で、KAWSやバンクシーなどストリートの方面からアートが社会的注目を受けたり、『サマーソニック』でアルゼンチン出身のレアンドロ・エルリッヒの作品が展示されたり、アートの間口は広がっています。ファンも多様化してきているという実感がありますね。

岩渕貞哉

コロナ禍での行動制限があって生活の中にアートを求める動きが高まりました。日本の現代アートのマーケットがここまで盛り上がったことは、かつてなかったと思います。戦後の具体やもの派が再評価されたのも、草間彌生さんや奈良美智さん、村上隆さんが著名になったのも、海外での評価が逆輸入されたものだった。

これまで日本人アーティストの価値を日本で作って海外に届けていくことがなかなかできていなかったのが、国内マーケットの成長や、日本のアニメや漫画、シティポップなどのカルチャーが、アジアを中心に海外で注目されて人気が出ていることとも連動して、そうした文脈のアーティストや表現が、日本発で海外へ行くという新しい流れができている。

その中心にあるギャラリーが、裏原やストリートカルチャーの文脈から多くのアーティストを輩出している〈NANZUKA〉や〈GALLERY TARGET〉ですね。それから、NFTアートにも言及したいです。

投機的な面で注目が集まるNFTが多いなか、たかくらかずき(15)は、東洋思想や仏教などの信仰とデジタルデータの価値を重ね合わせていくというユニークな活動を行っていて、「NFT BUDDHA」は世界で勝負できるコンセプトになる可能性を秘めていると思います。

山峰

NFTでは、クリエイティブコーダーの高尾俊介(16)が制作した「Generativemasks」も、世界的な話題になりました。売り上げはクリエイティブコーディングに関連する企業や財団に寄付され、社会貢献的な活動として着地しています。

分裂するシーンの中で、
日本ならではの表現も

山峰

近年のアートシーンには様々な動きがありますが、ただ、日本のアートシーン自体は、分裂しているんですよね。アジア固有のサブカル的なものと、グローバルスタンダードがあまりにも違っている。

セカンダリーで高騰していく作品と、社会的な文脈の中で語られるアートというものが、全く交わらない。両方が近くにあるから成り立っていたものが、そうではなくなってしまっているんですよね。

岩渕

美術館の企画展から個展へ、そしてコレクションに入るという王道とは異なる道も模索されてきているように思います。

3人組のアートコレクティブSIDE CORE(17)はストリートアートの歴史や手法に注目し、マーケットに回収されない方法でどう表現を続けていくかを考えて、キュレーションもしています。消費されると、新しい表現の可能性が潰されてしまう。そうならないために、文脈化して言説化していくことに軸足を置いて活動している貴重な存在だと思います。

布施琳太郎(18)も注目です。SNSやスマートフォンでつながりすぎてしまう社会で、孤独に自分を見つめていく「個」を、現代のテクノロジーの世界にどのように取り戻すかに真摯に向き合っている作家です。同世代で20代の作家を20人弱集めて展示をする求心力もあります。

今1人の作品でシーンを動かすのはすごく難しいことなので、キュレーションをするアーティストはさらに増えると思いますね。

山峰

キュレーションといえば、若手キュレーターたちを支援するスペースとして始まった〈The 5th Floor〉のようなスペースも、マイクロなムーブメントとしては面白いですよね。

また、〈東京キネマ倶楽部〉で月に1回、仮装して参加する『デパートメントH』というパーティにもよく参加しているサエボーグ(19)もそうですが、日本はエクストリームな側面もたくさんある国。

レーザーの演出を手がけるMES(20)も、クラブカルチャーの文脈でアーカイブを作りながら作品を制作しています。まあどんな形であれ、近年アートが好きな人が増えてきているのは、今後、日本でのシーンの追い風になっていくでしょうね。

NFTアートも、マーケットライクなアート作品も、国際的なアートも、一緒くたに「アート」と呼ばれている状況は非常にリスキーだけれど、そこに対してどういう水の流し方をしていくのか、美術館、ギャラリー、地域芸術祭などのそれぞれの意味と価値がどう連動するべきかをもう一度考えていくことも、これから重要になってくるのではないかと思います。

音楽イベントに出現する、巨大なアート作品にも注目したい

レアンドロ・エルリッヒ「Traffic Jam 交通渋滞」
レアンドロ・エルリッヒ「Traffic Jam 交通渋滞」
大規模な作品展示も楽しめるカリフォルニアの音楽フェス『コーチェラ・フェスティバル』。それに倣ってアートと音楽が融合した場を作ろうと、文化庁が主催し2022年に『サマーソニック』内で初めて現代アートの展覧会が開催。〈金沢21世紀美術館〉の「スイミング・プール」で知られるレアンドロ・エルリッヒは、気候危機をテーマにした砂の自動車の新作をビーチに展示。ほか、金氏徹平、小林健太、細倉真弓、イナ・ジャンが参加した。 ©SUMMER SONIC all Copyrights Reserved

昨今のアートは?

・“選ばれない”芸術祭が開催。
・人間主体でないアートの誕生。
・エンパワーメントからの表現。
・日本独自の文脈も。