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今、アートが買える場所が、全国、海外で増えています

今、アートを買える場所は東京以外にどこが面白い?京都か、それとも韓国か。様々な形態で作品を展示・販売するギャラリーや国内外のギャラリーが一堂に会するアートフェアが世界中で乱立している中、どこに注目しているのか。アートフェア、ギャラリー、アーティスト・ラン・スペースと多様な立場でアートに専門的に関わり国内外を飛び回る3名に、それぞれが感じる最新のギャラリーやアートフェアについて語ってもらった。

photo: Kazuharu Igarashi / text: Keiko Kamijo

アートが買える場所座談会

BRUTUS

この数年で、ギャラリーやアーティストが運営するアーティスト・ラン・スペース、他の業態と併せて作品購入ができる店など「アートが買える場所」が全国的に増えているような気がします。皆さんの肌感としてはいかがですか?

山下有佳子

私は、東京と京都を行き来していますが、普通に街を歩いていても視覚的に増えた気がします。

小林優平

僕たちが〈4649〉を始めたのが2018年なんですが、その時点でギャラリーを作家自身が運営するアーティスト・ラン・スペースが東京で自分の周囲だけでも3軒以上できていました。

山下

最近だと京都に〈OSCAAR MOULIGNE(オスカームリーン)〉(1)ができたのは新鮮でした。神社の石碑の隣に、突然コンクリート製の現代的な建物が現れる。いい意味での違和感を発しています。

菊竹寛

2023年にオープンしたんですよね。京都は今までも現代美術のギャラリーがありましたが、かなりエッジが効いていますよね。

山下

もともと京都は古美術を扱うギャラリーが多い。その中でも一番といわれているのが、「新門前」「古門前」という通りなんですが、最近は現代美術を扱う場所が増えてきました。

例えば〈思文閣(しぶんかく)〉(2)や〈艸居(そうきょ)〉(3)は古美術を取り扱いながらも積極的に現代美術も扱っています。また、今の京都の現代美術が盛り上がっているのは、美術系の大学にも要因があると思う。卒業後にそのまま京都で制作活動をするアーティストが増えて、コミュニティを形成しているような。

小林

わかります。いいアーティストが京都の美大の先生になっているケースも多い。僕らも京都行きたいって話してます(笑)。京都の町の雰囲気も込みで楽しめるというか。

山下

いろんな形のアートが混在しているのが、京都のアートシーンなのかもしれません。古美術も現代美術もあるし、〈VOU/棒〉(4)みたいな気軽に入れるショップのような場所や、〈MtK Contemporary Art〉(5)のように企業が運営しながら、ディレクターに現代美術作家の鬼頭健吾さんが携わるスペースがあったり。

小林

〈思文閣〉は〈嵯峨ハウス〉というスペースも最近始められて、〈4649〉で展示したことのある作家の滞在制作と招待制の展示をしていました。京都のスペースって、長屋を改造していたりして、京都の町の雰囲気と融合しながらやっているのがいい。時間もゆっくりしているように感じるし、背筋が伸びるような空気感というか。それが現代美術と一緒にある状態が面白い。

〈4649〉ギャラリスト・小林優平、〈Yutaka Kikutake Gallery〉代表・菊竹寛、Art Collaboration Kyotoプログラムディレクター・山下有佳子
左から/小林優平(〈4649〉ギャラリスト)、菊竹寛(〈Yutaka Kikutake Gallery〉代表)、山下有佳子(Art Collaboration Kyotoプログラムディレクター)。

土地や場所の特性を生かし、作品の販売方法も多様化

菊竹

金沢の〈Keijiban〉(6)も面白い試みですよね。町にある掲示板を展示スペースにしているんです。作品の販売はウェブで行っているんですが、オリジナル作品のほかに国内外の作家のマルチプル(作家とともに制作する量産品)も作られていて。それがすごく素敵なんです。

あと那須の〈板室温泉 大黒屋〉(7)もいい。温泉にも入れますし、工芸の作家から中堅作家まで毎月展示も入れ替わるし、〈倉庫美術館〉という菅木志雄さんの作品だけを展示している美術館も併設されています。

小林

以前はコンペもしてましたね。審査に通ったら宿泊できると聞き応募しようと思ったことがあります。

菊竹

海外だと、ソウルに面白いギャラリーが増えたとよく聞きます。2022年に『FRIEZE SEOUL』というアジア最大規模のアートフェアがスタートしたのが大きいとは思いますが、その前からもカルチャーがあって。韓国ベースの大きなギャラリーも多く、海外ギャラリーのアジア拠点も香港か韓国という流れができつつありました。

僕が注目するのは、アーティストが仲間と運営する〈CYLINDER ONE〉(8)と韓国の若手作家を扱う〈EverydayMooonday〉(9)。〈G Gallery〉(10)も面白い活動をしています。

商業的すぎず新たな交流の場となるアートフェア

山下

韓国は、最近若い世代のコレクターがすごく増えていますね。彼らはみんなでアートを盛り上げようという使命感が強く、グループで行動し、一緒にアートフェアに足を運んだりといった教育活動をされています。

2024年4月にはコレクター主導のアートフェア『ART OnO』が開催されました。ファウンダーの方に聞いたのは、世界の名だたるアートフェアは商業に寄りすぎているから、質が良くギャラリーやアーティストに寄り添うフェアが欲しくて自分で立ち上げたと。

アートフェアもいわゆる商業中心ではない考え方のものが増えましたね。香港の『SUPPER CLUB』は自分たちのことをアートフェアとは呼ばないって断言しています。香港ってメガギャラリーを見に行く場所という認識だったんですが、最近は〈PHD〉(11)と〈THE SHOPHOUSE〉(12)を筆頭に、若い作家を扱うギャラリーが増えて雰囲気が変わりましたよね。

菊竹

確かにそうでしたね。アートには、シーン(芸術が生まれる場)とマーケット(市場)があると思います。香港って長い間マーケットはあるけどシーンがないって言われていた。そこに、シーンができてきたのは、最近の韓国と似ていますね。

小林

スイスの『Basel Social Club』も面白い。普通のアートフェアって、いくつかの大きさのブースが設置される感じですが、これは一軒の古い邸宅や工場を会場にして各部屋でプレゼンテーションが開催される。しかも、毎年場所が変わるんです。『Art Collaboration Kyoto(ACK)』も普通のアートフェアとはちょっと違う気がする。会場(国立京都国際会館)の建築が最高ですよね。

山下

ありがとうございます。私は、個人的にアートフェアに行くのが好き。自分で初めて作品を買ったのもアートフェアだし。自分の力では探せない作家や作品に出会えるし、発見できる楽しみがある。でも、自分がギャラリーとしてフェアに参加した時は違いました。空間は作りにくいし、売らなきゃというピリピリした雰囲気もあって辛かった。もちろん売るということはとても重要。

でも、ACKでは出展するギャラリストの皆さんも含めて、皆さんの長期的なつながりを生む場所になったらと思っていて。そのためには余白が不可欠なので、毎年プログラムを作る際にはいろいろと考えています。物理的に大きなアートフェアって歩くだけでも辛いし、なんだか緊張しちゃいますよね。私はメキシコの『MATERIAL』が好きなのですけど、すごく緩い。ある種の緩さって、今の時代に必要なのかもと思います。

菊竹

それで言うとアメリカの『NADA』は激ユルですよね。オペレーションも会期中の雰囲気もゆったり。

小林

近所の人が、犬連れて普通に見に来てますよね。世界各地の大きなフェアが一回整ったから、各地で小さいフェアが増えたんじゃないかな。

スペースを持たないで世界各地のギャラリーと協働して活動する〈galerie tenko presents〉のようなギャラリーもできています。最近は僕らと一緒に『MATERIAL』に出展しました。そういう場所を持たないギャラリーや、ギャラリー同士のコラボレーションプロジェクトは今後増えていくと思います。

〈4649〉ギャラリスト・小林優平、〈Yutaka Kikutake Gallery〉代表・菊竹寛、Art Collaboration Kyotoプログラムディレクター・山下有佳子
座談会を開催した当日、〈Yutaka Kikutake Gallery〉では、三瓶玲奈の新作個展『光をたどる』を開催していた(現在は会期終了)。