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アートコレクターのはじめて物語。インテリアデザイナー・片山正通

アートを多数収集するコレクターにも、開眼するきっかけとなった最初の一歩があったはず。今のコレクションを築く、そのはじまりのエピソード、アートとの出会いを片山正通さんに語っていただいた。

photo: Kazuharu Igarashi / illustration: Masaki Takahashi / text: Keiko Kamijo

コンセプチュアルアートに触れて、新しい世界の扉が開いた

世界的なインテリアデザイナーとして活躍する片山正通さん。コレクションの対象は、現代アート作品のみならず、家具やCD、本や骨董品、そして本人がガラクタと呼ぶ名もなきオブジェにまで及ぶ。「買ったもののすべてが、創造の糧となっています」と語る片山さん。

〈TARO NASU〉のギャラリスト、那須太郎との出会いを機に、本格的にコンセプチュアルアートの扉が開く。最初に買ったのはライアン・ガンダーの作品だ。

「この作品はルースアソシエーションというシリーズの一つです。緩やかな関係性を持ついくつかの写真が壁面に構成され、横に作品名が書かれたプレートが付けられている。実は全体を撮影した写真が額装されているという作品なんです。さらに額の右下に、写真内にあるものと同じプレートをまた展示せよと作家から指示されている。何重も入れ子構造になった複雑な作品でした」

今まで見てきたアートとはまったく違う世界が広がっていた。

「デザインって相手に機能や良さが伝わらないと意味がありませんよね?でも、ライアンの作品は、物事の意味なんてものは100%他人には理解できない、理解すること自体が無意味だということを教えてくれたのです。見方は一つじゃないし、価値も見る人が決めればいい。そんなデザインとは対極に存在する自由さとある種の怪しさに心を打たれました。日頃の凝り固まった価値観を揺さぶられる体験がしたくて、今でもコンセプチュアルアートを買い続けているのかもしれません」

Ryan Gander

アーティスト ライアン・ガンダーの作品
ライアン・ガンダーの《And Who Knows》(Associative Photograph #15)2004年。作品下にある作品は、片山さんがコレクションする動物の剥製。