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アマゾンに通うこと30年超。南研子が先住民から賜った“深い絆と感謝のアート”

代官山のギャラリー〈ART Is.TOKYO GALLERY〉で開催中の「アマゾン先住民から南研子へ、深い絆と感謝のアート展」。NPO法人 熱帯森林保護団体代表・南研子さんが30年にわたるアマゾン先住民との交流の中で温めてきたコレクションを展示販売する貴重な機会だ。膨大なコレクションが物語る、彼らとの深い絆とは?

photo: Kazufumi Shimoyashiki / text: Chisa Nishinoiri

アマゾン先住民と重ねた、魂の対話

「別れの握手をしたときに、行ったこともないアマゾンの川、ヒョウの鳴き声、ジャングルの匂いを、アマゾンの先住民でカヤポ族の長老、ラオーニから感じました。この人は無我だから森の精霊や動物、植物、そしてインディオの人たちが森を守る使命を託したのでしょう」

それは、アマゾンの先住民カヤポ族の長老であり呪術師であるラオーニからの“無我”のメッセージのようであった、とNPO法人 熱帯森林保護団体代表・南研子さんは、長老との出会いを振り返る。1989年5月、英国の歌手スティングが行ったワールドキャンペーン・ツアー「アマゾンを守ろう」の支援スタッフを務めたときのことだ。そのツアーに同行していたラオーニとの縁がきっかけとなり、以来30年以上にわたり、トータル34回、2000日以上をジャングルで過ごし、18民族のインディオの人たちと暮らし考え、支援活動を続けている。

「よくもそんな大層なことを、と驚かれるけど、ご縁と出会いに導かれて、成り行きが重なって気づいたら30年以上。本当に、あっ!という間でしたね。何か自分に手伝えることがあればと通っているうちに、どんどん深入りしてしまって……。悪い男に捕まっちゃったようなものね(笑)」と、南さんはあっけらかんと笑って言い放つ。けれど30年にわたり森の変貌を目の当たりにしてきた南さんの心には、言い尽くせないほどの思いが去来してきたことだろう。

「輸出用大豆栽培のための大規模農業開発で森はどんどん姿を消していく。私たちが普段の生活で何気なく目にしている大豆製品はそうして作られたものかもしれない……。他にも巨大水力発電所の建設や金鉱山開発などの間伐で森がどんどん壊されていって、ヒョウやアリクイたちのすみかが火だるまになって焼かれていくのを本当にやりきれない思いで見ていました。

私は大義名分も、肩肘張るのも好きじゃない。でも、もし自分の親戚が困っていたら、助けるわよね。私にとっては、遥か遠く2万km離れたアマゾンに2万人くらいの親戚がいるような感じかしら。大変だとかどうかなんて、考えない。そりゃあ、紆余曲折いろいろありましたが、とにかく現場が刺激的だから、退屈しない。ただ一つ言えるのは、始めたからにはやめない、ということかな」

南研子さん
会った瞬間に元気がもらえるような、エネルギー満点の南研子さん。秘蔵コレクションに囲まれた自宅にて。

貨幣価値には換算できない、感謝のかたち

今回、展示販売されている作品はこれまで南さんが彼らと交流する中で、アマゾン先住民たちから感謝の印として贈られてきた品々だ。動物や精霊をかたどった木彫りの作品は愛らしさと優しさに満ちた表情で佇み、まるで今にも動き出しそうな不思議な力強さが宿り、ヤシの実や鳥の羽で作られた装飾品は目を見張るほど繊細だ。
それはもう、彼らの魂そのものなのだろう。

「こんなにも素晴らしいものを作る人たちがいるのだということに、驚きと同時に、喜びを感じました。もちろん彼らには、下絵やデザインなんていう発想はありません。自然の中からモチーフを感じ、それを純粋にカタチにしているだけ。彼らが生み出すアート作品は、入っているエネルギー量がまるで違うから、精霊パワーが満載ですよ」

水瓶やカゴなどは彼らの生活の中で使われるであろう生活工芸品。そこに施された動物のモチーフや独自の紋様には、遊び心が溢れている。

アマゾンを思う仲間たちが、増えていったら嬉しい

実はこれらの作品は、「彼らの作品に囲まれて、コーヒーなんかを飲みながらアマゾンを感じられる空間をつくれたら」と、南さんがいつか美術館をつくろうと大切に温めてきたコレクションだ。今回の展示販売に至ったのには不思議な出会いもあったそう。

「手放す気なんてこれっぽっちもなかったし、ましてや販売するなんていう発想は毛頭ありませんでした。けれど、コロナ禍ですべてが大きく変わって。これまでは多くの心優しい人たち、企業の助成金へのプロジェクト申請などの支援金で、微力ながら支援活動を続けてきましたが、この状況下で資金調達も難しくなってきたとき、〈ART Is.TOKYO GALLERY〉のふくしまアヤさん、ミッキーさんとの出会いがありました。

そして今だからこそ、これらの作品を販売して彼らのために還元できたらと考えたんです。私が個人的に集めた工芸品の数々、メイナク族の椅子たち、その声に耳を傾けると“私たちが森を守るお手伝いをします”と言ってくれているようでした」

バクの椅子
30年以上前、南さんがメイナク族から初めて贈られたバクの椅子。ここからすべてが始まった。

「この子たちが嫁ぎ先で大事にされて、結果“アマゾン仲間”が広がってくれたら嬉しい」。手放す寂しさはないですか?という問いに、南さんはそう言って、やはりあっけらかんと笑顔を見せてくれた。

今回の売上金は、ジャングルを火から守り、自然の恵みやヒョウやアリクイ、カピバラなどが絶滅せずに生きていける支援活動の資金、そして現在100歳に手が届く年齢になっているラオーニの心臓のペースメーカー手術のための経費として、大切に使われる。

「人生は選択の連続。私はただ、自分が信じた道を進んできただけ。反省はいっぱいあるけれど、後悔はない。どこへ行くか?何を選ぶか?ということは、どう生きるか?ということだと思うから。そして他者を思う優しさがあれば、変わることがある、と私は信じています」

シングーのジャングルで命を授かった美術品が、きっとアマゾンの森と心を繋げてくれる。

展示会場の様子
代官山にある〈ART Is.TOKYO GALLERY〉の展示会場の様子。