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体で絵を描く2人のアーティスト、横尾忠則と香取慎吾の対話【ART CONVERSATION BY CARTIER】

フランスを代表するジュエリーメゾンのカルティエのアートをテーマにした連載。共にシンパシーを感じる横尾忠則、香取慎吾の対談が実現。

photo: Keisuke Tsujimoto / styling: Yasuomi Kurita / hair&make: Tatsuya Ishizaki / text: Ichico Enomoto

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これまでカルティエ現代美術財団のために作品を描いたアーティストたちの肖像画と自画像を制作し、『結 MUSUBI』展で展示している横尾忠則。そしてアーティストとして数々の個展も開催し、『結 MUSUBI』展でも印象的な絵画を披露している香取慎吾。横尾をリスペクトする香取が横尾のアトリエへ。久しぶりの邂逅を果たした2人が、創作について語り合う。

40代で画家としてスタート。同じ展覧会に作品が並ぶ2人

——まず、お2人それぞれのカルティエとのつながりを教えてください。

横尾忠則

2006年にパリのカルティエ現代美術財団の美術館で、絵画の個展は初めてだった。ヨーロッパではグラフィックや版画の個展を、他の美術館でたくさんやっていますがね。それから財団30周年のときに、財団と縁のあるアーティストや建築家、科学者とか130人くらいの肖像画を1ヵ月半くらいで描いたんです。毎日毎日描いて、病気になって入院したくらい(笑)。

香取慎吾

えー、大変でしたね。僕は、17年に時計「タンク」の100周年記念で絵を描かせてもらったんですが、実はその前、僕がまだグループで活動していた14年に、僕のアトリエに絵を見に来てくださった人がいて。それが今回のキュレーターのエレーヌさんだったんです。

横尾

そうですか。香取さん、絵を描くようになったのはいつから?

香取

ずっと描いてはいたんですが、以前雑誌の企画でこのアトリエにお邪魔させてもらったのが18年で、本格的に描くようになったのはそれくらいだと思います。あのあと初めての個展を開かせてもらって。

横尾

今、おいくつでしたっけ?

香取

僕、47歳です。

横尾

僕が画家に転向したのは44歳だからそれより若かったんですね。しかもそれまでの仕事も続けているのだから、職業が増えたわけだ。

香取

まだ新しい道を歩き始めたばかりで、あの頃は何をしたいのか、何をすればいいのかもわからない時期でしたけど、横尾さんが「自分もいろいろ言われたことがあったけど気にせずとにかく突っ走れ」と言ってくださって、その言葉は今も心に残っていますし、本当に励みになりました。

横尾

それからは目覚ましい活躍ですね。僕が50~60年かかってやったことをあっという間にやっちゃうんだから。

香取

いやいやいや。でもその横尾さんと同じ展覧会に自分の絵が展示されているというのが信じられなくて。本当にうれしいです。

横尾忠則《自画像》2018年
横尾忠則《自画像》2018年
©Tadanori Yokoo ©Clerin-Morin

香取さんの作品は多面的。歌や芝居が訓練になる

——横尾さんは香取さんの作品をご覧になって、どんな印象を持たれましたか?

香取慎吾《時間が足りない : need more time》2017年
香取慎吾《時間が足りない:need more time》2017年
©Shingo Katori

横尾

香取さんは多面的に活動する方だから、作品も多面的。美術学校に行っていなくても、歌ったりお芝居したりすることが美術の基本の訓練になっていたんだと思う。美術学校なんて、行く必要ないですよ。僕も美大には行っていないし独学だから、香取さんがやろうとしていることや悩みもわかりますよ。

香取

そう言っていただけてうれしいです。横尾さんはずっと創作活動を続けていらっしゃるのがすごいなと思っています。

横尾

香取さんは音楽を通して肉体的な行動をしてきたけど、絵を描くということも肉体的な行動で、そんなに違うことをやっているわけではないんです。僕は子供の頃から絵しか描いていなかったけど、香取さんはいろいろな経験と体験をしてきて、それが絵にも表れてくる。

香取

そうかもしれないですね。

コンセプチュアルアートから身体性で表現する時代へ

横尾

今、美術の最先端はコンセプチュアルアートですが、この時代はもうすぐ終わります。これからは頭で描くのではなくて、もっと肉体的、身体性で表現していくようになりますよ。

僕なんていつも頭の中を空っぽにする訓練をしてますから。そういう意味ではアーティストはアスリートに近いんです。アスリートは瞬間芸みたいなもので、あれは考えていたらできないでしょう。

香取

そうですよね。でもみんな、作品について説明を欲しがりますよね。最初の個展のとき、作品にあまりタイトルをつけていなくて「No Title」の絵がいっぱいあったんですが、あれは何か意味があるんですか?と聞かれて。

横尾

それは、今の世の中がコンセプチュアルアート全盛の時代だから。観客も洗脳されてるんですよ。

香取

それで2回目の個展で必死にタイトルをつけたら、今度は「あのタイトルはどういう意味があるんですか?」と聞かれちゃいました。

横尾

説明する必要はないですよ。逆に「あなたはどう思いますか?」と聞いて、説明してもらった方が面白い。香取さんはステージ上でやっているようなサービスをしたくなるのかもしれないけど、見る人にそこまでサービスしなくていいですよ。描きたいから描いている、それでいいんです。

香取慎吾と横尾忠則
「巡回展をしたら、僕がいなくても何万人もの人が来てくれて、すごいことだなと」(香取)。「そりゃそうだよ。これからは画家になるためにはまず歌手になることだね」(横尾)

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