自然に学び、生きているアートを生む、奥深い仕事
水草がゆらめき大きな川石が鎮座する、幅7mの巨大水槽。近年、多くの水族館で採り入れられているのが、自然環境を水槽に再現するネイチャーアクアリウム。水草育成器具メーカー〈アクアデザインアマノ(ADA)〉は、写真家でネイチャーアクアリウムの提唱者である水景クリエイター、故・天野尚さんが1982年に創業した。天野さんから直接学び、現在第一線で活躍する本間裕介さんに話を聞いた。
「天野は少年時代に遊んだ新潟の鎧潟(よろいがた)を干拓により失った経験があります。このことが自然を再現する力の源になりました。また、独自に組み上げた8×20インチという大きさのパノラマの大判カメラを担ぎ、森や川に入って自然写真の撮影を続けました。
水景を制作するうえでは、自然に学ぶことが欠かせないからです。撮影することで風景の切り取り方を知り、水景の構図に生かせる。川を眺めれば石の配置とそれに伴う水の流れがわかります」。さらに盆栽に風の流れを、日本画に余白や奥行きのあり方を学ぶという。
本間さん率いるチームは、2023年オープンした〈AOAO SAPPORO〉の水槽〈風薫る石景〉でネイチャーアクアリウムの象徴的なスタイル「石組」に挑戦。「親石と添石を組み合わせて空間を作ります。使っている八海石は天野も好きだったもの。これで石組を作るのが夢だったんです。水草の生長や魚の隠れ場所など、自然の循環を想像しながら構想していきました」
手をかけ、緻密に作り上げられる水槽だが、展示の場に解説はない。「ネイチャーアクアリウムは刻々と変化するもの。同じ瞬間はない、いわば生きるアート。水の循環や光合成をはじめとする自然界の仕組みをただ感じてほしい。その結果自然環境への関心や理解を深めてもらえたらいいですね」