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「安西水丸展 村上春樹との仕事から」が村上春樹ライブラリーで開催中

安西水丸が村上春樹との仕事にまつわる作品で構成された「安西水丸展~村上春樹との仕事から」が早稲田大学 国際文学館 村上春樹ライブラリーで公開中だ。今回、初公開となる作品も多数。村上春樹との長い交流の中から生まれてきた作品群は、盟友ふたりの人間性が滲み出る、心なごむ展示となっている。

photo: Yoshio Kato / text: Akihiro Furuya

安西水丸がはじめて村上春樹の装丁を担当したのは『中国行きのスロウ・ボート』。スクリーントーンによる切り絵のようなイラストによる装丁はフレッシュで、村上春樹自身も“清新で素晴らしい絵”と表している。以来、2人の共同作業は続いていく。展示された安西水丸からのメッセージ「村上春樹さんとの仕事のこと」によれば、

《――その後(『中国行きのスロウ・ボート』以来)、村上さんとは何冊も共著を出し、装丁も「村上朝日堂」シリーズや、「日出る国の工場」、「やがて哀しき外国語」、「うずまき猫のみつけかた」等(まだあると思いますが)、多く関わりました。

(中略)

ぼくの場合、村上さんとはごく自然に友だちになり、その後もあれこれと仕事をしているので、彼の方から特にこれといった注文はありません。おまかせとでもいうのでしょうか、いつも自由にやらせてもらっています――》

そんな2人の温かい関係から生まれた作品が展示室を埋め尽くすこの展覧会は、安西水丸の遺族から寄贈を受け、収蔵後初公開となるもの。「中国行きのスロウ・ボート』の原画はもちろんのこと、「村上朝日堂」シリーズ、最近、復刊されたお二人による絵本『ふわふわ』など貴重な原画、雑誌などの書籍化されていない作品を見ることできる。

安西の作品はその仕事の性格上、小さいものが多いが、シグネチャーともいえるスクリーントーンを使った作品を、窓のやさしい透過光を利用し大きく展示するなど、安西水丸の魅力を増幅させた新しいアプローチの空間構成だ。担当したキュレーターの小高真紀子さんによると、

「村上春樹ライブラリーの元校舎としての機能、ライブラリーとしての佇まいを生かしながら、回遊性を持たせ、近い距離で親密になれる空間を意識しました。なかでも校舎の窓を額縁と見立てて、ガラス窓に水丸さんの作品を透過のプリントして貼ることで、作品の持つ透明感がより引き立つだろうと思ったのです」

原画だけでなく、スノードーム、フォークアートにソフビの怪獣など、安西コレクションも展示。なかでも見逃せないのが、幼少時代(おそらく小学生)に描いた校内水泳大会のポスター。トレードマークともいえる水平線は、この時代から大切なモチーフとなり、イラストレーター・安西水丸はすでに完成していたかのようだ。

表に出ることが少ない村上春樹の普段のイメージは、フィクションとノンフィクションを織り交ぜながら、安西水丸の洒脱な表現でイラスト化され、私たちの知るところとなった。そんな二人の温かい関係を村上春樹は、「安西水丸さんのこと」として、展覧会にこう寄せている。

《僕にとっての安西水丸さんをどのような言葉で表現すればいいのか、どれだけ考えても「これぞ」という言葉がうまく浮かんでこない。「畏友」「僚友」「軽いめの悪友」「相棒」「ソウルメイト」……どれも合っているといえば合っている、でもちょっとずつ違うんだよな、という気がする。

でもとにかく、水丸さんとはたぶん気が合ったのだろう。ずいぶん長いあいだ二人で一緒に仕事をし、一緒にいろんなところに行き、たくさんお酒を飲んで、ろくでもない話をいっぱいした。とにかく話のうまい人で、何によらずお洒落だけど、それでいてやんちゃに羽目を外すところもあり、その結果というか、僕の知る限りとても女性にもてた。

この仕事をして、これまでいろいろ多彩な人に巡り会ってきたけど、水丸さんのような素敵な、鮮やかな(それでいて不思議に謙虚な)個性を放つ人には、他にお目にかかれなかったし、これから先もお目にかかれないだろうと思う。水丸さんの絵が、シンプルに見えながら、決して誰にも真似できないのと同じように。》

松任谷由実のアルバム「PEARL PIERCE」のアートワーク
館内の至るところに安西作品が展示されていて、宝探しのように観て回れる。こちらは松任谷由実のアルバム『PEARL PIERCE』のアートワーク。