「アニソン」かどうかを決めるのはアニメを観る人
岩崎太整
「アニソン」と呼ばれる曲が、どう定義されるのかを考えると、先ほど話した曲の構造という部分とは別で、アニソンか否かは観る人が決めるんじゃないかと思います。アニメの主題歌だからアニソンではなく、観る人が作品と同等、もしくはそれ以上、作品とセットでちゃんと認められるかどうかにかかっているのではないでしょうか。
冨田明宏
アニメを観る人が歌詞を読んで、キャラの心情を歌ってるみたいだと思えたら、それはアニソンだと認められる傾向があります。
岩崎
アニメとまったく関係ない曲をあえて使おうとは、今はなかなかならないですよね。
冨田
はい。大御所のアーティストでもアニメ監督やプロデューサーとちゃんと作品について打ち合わせをしていますからね。
岩崎
今もアニソンアーティストと定義される人はいますが、アニソンの歌い手と、ポップスの歌い手の区別もなくなってきています。
冨田
有名アーティストがアニメ主題歌を担当している例はすごく多いですよね。例えばサザンオールスターズは『ちびまる子ちゃん』をやっているし、GLAYもL'Arc〜en〜CielもMr.childrenもBUMP OF CHICKENも歌っている。
キャラクターソングを除けば、もうポップス歌手とアニソン歌手と分けてくくるのもナンセンスになってきています。アニソンの定義は観る人の尺度であって、作り手が定義しなくてもいいのかもしれない。
岩崎
しかも音楽は、ある程度アニメ自体の世界観が固まってから、作りだすことが多いですからね。
冨田
アニメにおける劇伴も、実写もそうですけれども、音楽が絵や物語に対して、ふさわしいものでないと、そのシーンの説得力が失われてしまうんです。
岩崎
アニメを放送した瞬間に、主題歌が「アニソン」と認識されるかというと多分少し違っていて、ストーリーと照らし合わせて観る人がある程度感情を移入できるということが重要ですよね。
何話も観ていると、聞こえ方もどんどん変わってくるでしょうし。『魔法少女まどか☆マギカ』の「コネクト」は、最後まで作品を観ていくと、全然聞こえ方が違ってくる。そういうものはアニソンと呼ばれるべきですね。
冨田
『CLANNAD』の「だんご大家族」も最初は子供向けの曲のように聞こえますが、作品を観た後は、あの曲を聴いただけで泣けるんです。
岩崎
ああいう仕掛けを作れるのは面白いですよね。
冨田
『STEINS;GATE』の「Hacking to the Gate」は22話までは1番の歌詞が流れていて、その後は2番の歌詞に替わります。実は22話のストーリーのなかで、決定的な伏線回収をするんですが、2番の歌詞では、それがわかるくらいにネタばれしてる。
22話まで観て、23話のオープニングを聴いたら「そういうことだったのか……」と観る人は思う。そういう仕組みが作れるのは、アニメソングの面白さかもしれない。
岩崎
そういうことを僕もやりたくて『ひそねとまそたん』で、8話からはサビから分岐するという手法をとりました。サビまで同じで、8話以降はサビからまったく違う曲になります。
冨田
観る人は「この曲は作品にふさわしいか」「この曲がなぜ主題歌なのか」と、アニメと音楽の密着感に注目しているんだと思います。観る人を納得させるために、そういうギミックは、演出として必要なものですね。
実際に2000年代に入ってから、作品と曲が合わないという理由で、作品が叩かれるという例がいくつかありました。最後までアニメを観た結果、曲は関係なかったと思わせてしまうと、心に残るアニソンにならないのかもしれない。
これからのアニメソングはもっと自由になる
岩崎
僕はポップスも作りますが、ポップスで曲をそこまで深く聴いてくれる人は多くない気がします。曲自体を気に入ったかどうかとはまた別のベクトルで、作品にふさわしいかをちゃんと聴いてくれる。そんな音楽の聴き方、なかなか今はしてもらえない。
冨田
そうなんです。アニメの音楽の仕事をすると、ファンの人たちがアニソンに関わった作家たちまで覚えてくれると、作家が喜んでいました。
岩崎
すごくリスペクトしてくれますよね。ただ最近ちょっと放送されるアニメの本数が多すぎるとは思いますが。
冨田
昨年でいうと、年間200本以上新しいアニメが出てきています。それだけのアニメが放送されると、どんなに熱心にアニメを観る人でも、1クール5本が限界かと。昔ほど一作品を掘り下げて語られにくくなっています。
岩崎
作品が多くなって1クールで終わるものも増えてきた。そして今後配信が主流になると、1週間に1回の放送という頻度はなくなる。配信が始まったら、その日のうちに全話観ることができてしまう。
冨田
そうするとオープニング、エンディングの概念が変わりますよね。テレビのルールに倣う必要がなくなる。
岩崎
90秒という制約もなくなるでしょう。曲の尺は6秒でも90秒でも3分でもいい。サビ始まりである必要もなくなるかもしれない。
冨田
NETFLIXでアニメを観ていると、エンディングが流れる時に次のエピソードへスキップできるじゃないですか。オープニングもエンディングも飛ばせてしまう配信の仕組みを考えると、挿入歌の方がフィーチャーされるかもしれないですね。
岩崎
オープニングは6秒で、タイトルバックだけバーンと出るようなスタイルとかね。
冨田
海外のドラマはそういうものが多いですね。
岩崎
そうなると音楽の位置づけが難しくなりますね。そして配信によって作品自体も変わっていくでしょう。
冨田
NETFLIXやアマゾンプライムでの配信は、今までのアニメのように作品のDVD、Blu-rayを売って利益を出すという慣習に縛られない。実際にNETFLIXが100%出資するアニメも出てきています。今までとはアニメの作り方も変わり、音楽のルールも変わり、求められるものも変わるでしょう。
岩崎
作品も音楽も、今度は作り手が作りたいものが出てくる時代になるかもしれませんね。新しいものがどんどん生まれてくるならアニメもアニソンも、もっと面白くなると思います。