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音楽の作り手が考える、アニメソングの愛される条件。冨田明宏 × 岩崎太整 〜後編〜

アニメが人々の心に残り、愛される作品になるためには、主題歌や挿入歌、劇伴など音楽も大切な要素になる。作品とともに愛され続ける「アニソン」とは一体なんだろうか。作り手である冨田明宏さん、岩崎太整さんが、その定義や、時代ごとの移り変わりを語る。前編はこちら


初出:BRUTUS No.888「WE LOVE 平成アニメ」(2019年3月1日発売)

photo: Shota Kono / text: Saki Miyahara

「アニソン」かどうかを決めるのはアニメを観る人

岩崎太整

「アニソン」と呼ばれる曲が、どう定義されるのかを考えると、先ほど話した曲の構造という部分とは別で、アニソンか否かは観る人が決めるんじゃないかと思います。アニメの主題歌だからアニソンではなく、観る人が作品と同等、もしくはそれ以上、作品とセットでちゃんと認められるかどうかにかかっているのではないでしょうか。

冨田明宏

アニメを観る人が歌詞を読んで、キャラの心情を歌ってるみたいだと思えたら、それはアニソンだと認められる傾向があります。

岩崎

アニメとまったく関係ない曲をあえて使おうとは、今はなかなかならないですよね。

冨田

はい。大御所のアーティストでもアニメ監督やプロデューサーとちゃんと作品について打ち合わせをしていますからね。

岩崎

今もアニソンアーティストと定義される人はいますが、アニソンの歌い手と、ポップスの歌い手の区別もなくなってきています。

冨田

有名アーティストがアニメ主題歌を担当している例はすごく多いですよね。例えばサザンオールスターズは『ちびまる子ちゃん』をやっているし、GLAYもL'Arc〜en〜CielもMr.childrenもBUMP OF CHICKENも歌っている。

キャラクターソングを除けば、もうポップス歌手とアニソン歌手と分けてくくるのもナンセンスになってきています。アニソンの定義は観る人の尺度であって、作り手が定義しなくてもいいのかもしれない。

岩崎

しかも音楽は、ある程度アニメ自体の世界観が固まってから、作りだすことが多いですからね。

冨田

アニメにおける劇伴も、実写もそうですけれども、音楽が絵や物語に対して、ふさわしいものでないと、そのシーンの説得力が失われてしまうんです。

岩崎

アニメを放送した瞬間に、主題歌が「アニソン」と認識されるかというと多分少し違っていて、ストーリーと照らし合わせて観る人がある程度感情を移入できるということが重要ですよね。

何話も観ていると、聞こえ方もどんどん変わってくるでしょうし。『魔法少女まどか☆マギカ』の「コネクト」は、最後まで作品を観ていくと、全然聞こえ方が違ってくる。そういうものはアニソンと呼ばれるべきですね。

『魔法少女まどか☆マギカ』
『魔法少女まどか☆マギカ』
2011年にMBSほかで放送され、社会現象となったアニメ。
オープニングテーマの「コネクト」は、作詞・作曲を渡辺翔、編曲を湯浅篤、歌をClariSが手がける。ClariSは当時中学生だったクララとアリスの2人組。この曲は彼女たちの2枚目のシングルで、ロングヒットを記録した。

©Magica Quartet/Aniplex・Madoka Partners・MBS

冨田

『CLANNAD』の「だんご大家族」も最初は子供向けの曲のように聞こえますが、作品を観た後は、あの曲を聴いただけで泣けるんです。

『CLANNAD』
『CLANNAD』
2007年から09年にTBS系列で放送されたアニメ。
挿入歌、エンディングテーマの「だんご大家族」は、作詞・作曲を原作シナリオライターの麻枝 准が手がけ、編曲・たくまる、歌・茶太、コーラス・真理絵、くない瓜、Rio、Morrigan、藤枝あかね、茶太、たくまるが担当。07年にKey Sounds Labelから発売された。

© VISUAL ARTS/Key Sounds Label

岩崎

ああいう仕掛けを作れるのは面白いですよね。

冨田

『STEINS;GATE』の「Hacking to the Gate」は22話までは1番の歌詞が流れていて、その後は2番の歌詞に替わります。実は22話のストーリーのなかで、決定的な伏線回収をするんですが、2番の歌詞では、それがわかるくらいにネタばれしてる。

22話まで観て、23話のオープニングを聴いたら「そういうことだったのか……」と観る人は思う。そういう仕組みが作れるのは、アニメソングの面白さかもしれない。

『STEINS;GATE』
『STEINS;GATE』
Xbox 360で発売されたゲームのメディアミックスとして制作されたアニメ。
オープニングテーマの「Hacking to the Gate」は、作詞・作曲を原作ゲームの企画・原案である志倉千代丸、編曲を磯江俊道が担当し、いとうかなこが歌う。この作品は2011年にTOKYO MXほかで放送。歌詞にストーリーが反映されていることでファンの間で話題となった。

©2011 5pb./Nitroplus未来ガジェット研究所

岩崎

そういうことを僕もやりたくて『ひそねとまそたん』で、8話からはサビから分岐するという手法をとりました。サビまで同じで、8話以降はサビからまったく違う曲になります。

冨田

観る人は「この曲は作品にふさわしいか」「この曲がなぜ主題歌なのか」と、アニメと音楽の密着感に注目しているんだと思います。観る人を納得させるために、そういうギミックは、演出として必要なものですね。

実際に2000年代に入ってから、作品と曲が合わないという理由で、作品が叩かれるという例がいくつかありました。最後までアニメを観た結果、曲は関係なかったと思わせてしまうと、心に残るアニソンにならないのかもしれない。

これからのアニメソングはもっと自由になる

岩崎

僕はポップスも作りますが、ポップスで曲をそこまで深く聴いてくれる人は多くない気がします。曲自体を気に入ったかどうかとはまた別のベクトルで、作品にふさわしいかをちゃんと聴いてくれる。そんな音楽の聴き方、なかなか今はしてもらえない。

冨田

そうなんです。アニメの音楽の仕事をすると、ファンの人たちがアニソンに関わった作家たちまで覚えてくれると、作家が喜んでいました。

岩崎

すごくリスペクトしてくれますよね。ただ最近ちょっと放送されるアニメの本数が多すぎるとは思いますが。

冨田

昨年でいうと、年間200本以上新しいアニメが出てきています。それだけのアニメが放送されると、どんなに熱心にアニメを観る人でも、1クール5本が限界かと。昔ほど一作品を掘り下げて語られにくくなっています。

岩崎

作品が多くなって1クールで終わるものも増えてきた。そして今後配信が主流になると、1週間に1回の放送という頻度はなくなる。配信が始まったら、その日のうちに全話観ることができてしまう。

冨田

そうするとオープニング、エンディングの概念が変わりますよね。テレビのルールに倣う必要がなくなる。

岩崎

90秒という制約もなくなるでしょう。曲の尺は6秒でも90秒でも3分でもいい。サビ始まりである必要もなくなるかもしれない。

冨田明宏(音楽プロデューサー)
「アニメを観る人は作品と音楽の密着感に注目している」(冨田明宏)
岩崎太整(作曲家)
「アニソンのような音楽の聴き方は、他ジャンルではなかなかしてもらえない」(岩崎太整)

冨田

NETFLIXでアニメを観ていると、エンディングが流れる時に次のエピソードへスキップできるじゃないですか。オープニングもエンディングも飛ばせてしまう配信の仕組みを考えると、挿入歌の方がフィーチャーされるかもしれないですね。

岩崎

オープニングは6秒で、タイトルバックだけバーンと出るようなスタイルとかね。

冨田

海外のドラマはそういうものが多いですね。

岩崎

そうなると音楽の位置づけが難しくなりますね。そして配信によって作品自体も変わっていくでしょう。

冨田

NETFLIXやアマゾンプライムでの配信は、今までのアニメのように作品のDVD、Blu-rayを売って利益を出すという慣習に縛られない。実際にNETFLIXが100%出資するアニメも出てきています。今までとはアニメの作り方も変わり、音楽のルールも変わり、求められるものも変わるでしょう。

岩崎

作品も音楽も、今度は作り手が作りたいものが出てくる時代になるかもしれませんね。新しいものがどんどん生まれてくるならアニメもアニソンも、もっと面白くなると思います。