テーマ:人生
観れば観るほど味わい深い人生を描いたアニメとは?
高橋克則
次のテーマは「人生」。僕は『新世紀エヴァンゲリオン劇場版 Air/まごころを、君に』('97)ですね。後半に実写映像が挿入され、新宿ミラノ座に来た観客たちが映し出される場面があるんです。旧エヴァの素晴らしさは、庵野秀明監督が現実も虚構もアニメファンも、「庵野、殺す」という自分に対する誹謗中傷さえも作品内に取り込み、すべてをエヴァの一部にしていることだと思っています。
藤津亮太
宮沢賢治作品を猫で映像化した後書き的な『銀河鉄道の夜』('85)や、祖母・母・私という女性3代の大河ドラマ『劇場版 花咲くいろは HOME SWEET HOME』('13)、『若おかみは小学生!』('18)も、ザ・人生。
青柳美帆子
女性3人の人生を描いた『漁港の肉子ちゃん』('21)は名作ですね。大竹しのぶをはじめとする声優の演技がとてもうまい。肉子ちゃんのキャラデザインがかわいいので、風俗の暗喩も含め、実写だと重すぎたであろう彼女の人生を観客が受け止められる。
高橋
渡辺歩監督は、真に人生賛歌の作家だと感じます。
青柳
『かぐや姫の物語』('13)や『千年女優』('01)は、こういうキャラクターが本当に実在していたと信じさせてくれるくらい生き生きと描かれていて、観るたびに違う捉え方や考察ができるのが素晴らしいです。
藤津
『千年女優』の、「だって私、あの人を追いかけてる私が好きなんだもの」という最後の名セリフも、どう解釈するかは人それぞれなんだよね。
青柳
『魔女見習いをさがして』('20)は映画館で観た時、俺たちアラサー世代が狙い撃ちされた!と思いました。
藤津
男の人生は?『クレヨンしんちゃん ガチンコ!逆襲のロボとーちゃん』('14)は、男の復権という題材にバカバカしさも合体した傑作。悪役の設定が「妻子に虐げられた虚弱な男が強いフリをしてる」っていうのも批判的で面白い。
青柳
ジブリの『風立ちぬ』('13)で描かれているのは、時代の中で精いっぱい生きるしかない男のエゴイスティックな人生ですよね。好き♥
藤津
そうすると、『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』('88)と『ルパン三世 カリオストロの城』('79)は、若い頃のこだわりが捨てられない男がおっさんになり、おっさんであることを受け入れる物語かな。
高橋
そして、みんなの人生を描いたのが『マインド・ゲーム』('04)。
藤津
いろんな人の“どんな私でいたいか”を掘り下げている。悪役にも人生があるという視線が湯浅政明っぽい。
高橋
悪役なら『映画 Yes!プリキュア5 GoGo! お菓子の国のハッピーバースディ♪』('08)のムシバーン。声が大塚明夫で見た目も超ダンディ。あの渋い声で言うんです、「おいしいお菓子が食べたい、それが我が望み。いくら食べても満たされない苦しみが、お前たちにわかるか」。これは我々の、アニメを観ても観ても満たされない悲しみと一緒なんですね。
で、女王に言われちゃう。「味の問題ではないのです。あなたにはお菓子に込められた気持ちを受け取る心がなかった」
青柳
ガーン!(笑)
高橋
痛い、そして深い。まさに人生。