テーマ:戦い
藤津亮太
次のテーマは「戦い」。何度も観たいのはバトルシーンの快感度が高い作品です。例えば『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』('21)の光の演出。暗闇の中を機関銃のマズルフラッシュやビームの粒子が飛び散るのは、特に劇場だとたまらなく気持ちいい。
高橋克則
『BLAME!(ブラム)』('17)は音響もすごくて、映画館で観ると主人公の銃からビームが発射された時にスピーカーの振動が体に伝わってくる。コイツはすごい武器を使っているぞ!と体感できるんです。それに臭いも感じられる。キャラが重いスーツを脱いだ瞬間にムワッと湯気が立つんです。CGでこんな臭そうな感じを出せるんだと驚いた。
藤津
ベースが西部劇なんですよね。『ストレンヂア 無皇刃譚』('07)もそう。後悔を抱えた男が、偶然出会った少年を守るために戦う物語。
高橋
西部劇っぽさなら『ガールズ&パンツァー劇場版 GIRLS und PANZER der FILM』('15)も。乗るのは馬じゃなく戦車ですけど。
藤津
究極の戦争ごっこですね。華道、茶道に加えて「戦車道」が女性の嗜みとしてのスポーツになっている設定。
高橋
横長の戦車に対して、高さのあるスーパーロボットに真っ正面から挑んだのが、『マジンガーZ対デビルマン』('73)。何がすごいって、マジンガーZを大きくカッコよく見せることしか考えてない。横長のスコープサイズでロボットの巨大感を出すために、極端なローアングルから見上げたり、カメラを横に倒して全身を映したりしている。
ちなみに勝間田具治監督はマキノ雅弘さんの助監督をしていた実写畑の人。だからアニメの常識に縛られないフィルムになっているんでしょうね。
藤津
格闘シーンの作画が良くて時々無性に観たくなるのが『ストリートファイターⅡ MOVIE』('94)。
高橋
『ニンジャバットマン』('18)は、いわば日本版アメコミ。途中で絵柄がまったく変わるパートがあるなど自由すぎる作風が最高!
藤津
アニメ制作会社〈神風動画〉による3DCGのバットマン公式スピンオフで、中島かずきさんの脚本です。
青柳美帆子
中島さんなら『プロメア』('19)はみんな大好きですよね。
藤津
シンプルな話を〇△□のぶつかり合いというグラフィカルな表現に落とし込んだ作品。炎を操るバーニッシュには三角、人間には四角のモチーフを使い、それが調和して丸に落ち着くというコンセプトの立て方が秀逸です。
高橋
この話には「滅殺開墾ビーム」という謎の必殺技がありまして。いずれ別の惑星に移住した際には土地の開墾が必要になる。そのために生み出した技を、流用したんですって。
青柳
バトルでありボーイミーツガールでもあるのは『映画ハートキャッチプリキュア!花の都でファッションショー…ですか⁉』('10)。アクションとドラマが両立しているんです。
アニメ映画が手に入れたドキュメンタリーの力
藤津
同じ「戦い」でもリアルな戦争を扱ったものとして、『さくらももこワールド ちびまる子ちゃん わたしの好きな歌』('92)があります。さくらももこが好きだった「めんこい仔馬」という歌が、実は日本軍の戦意高揚歌だったという実話がプロットの軸。
高橋
随所に戦争の傷痕や哀しみが描かれていて僕は衝撃を受けたけど、その非日常を支える日常の描写はとても素敵で、制作陣の底力が伝わります。
藤津
80年代にサブカルチャー世代が感じていた、「戦後のはずの今が戦前なのでは」という不安をアニメにした数少ない作品が『メガゾーン23(ツースリー)』('85)。例えばCGのアイドルがハッキングされて軍歌を歌ったりするんですけど、それは我々の社会がいつでも戦争に転落し得ることの象徴でもある。40年近く前の作品ながら、今日性を感じます。
高橋
逆に幻想的なシーンが印象に残るのは、『銀河鉄道の夜』をモチーフにした『ジョバンニの島』('14)。
青柳
『この世界の片隅に』('16)も、自分が体験してない時代の話なのに、主人公のすずさんとともに生きているように感じます。
藤津
実はそのタイムスリップ感って、徹底したリアルの追求──原作にある当時の日付を基に、史実や風景だけでなく天気や気温まで反映して描写されている──に基づいている。アニメが時代を記憶/記録するドキュメンタリーとしての力も備えてきたんですね。