混雑する青山の週末に、〈オーディオテクニカ〉のブースが出現
11月4日から6日の3日間、青山界隈に特別な会場を設置して開催された創業60周年イベント『Analog Market』。会場には音響機器に限らず、様々な「アナログなもの」を五感を通して体験することで感覚的に「アナログ」を理解することができるという、〈オーディオテクニカ〉のメッセージ「もっと、アナログになっていく。」を具現化したようなイベント。
幅広い人にこのメッセージを伝えるため、週末の渋谷、原宿、表参道の各駅から徒歩圏内の場所に3つの会場を開設。国連大学前で毎週末開催されている〈ファーマーズマーケット〉とコラボレーションするかたちで開催した<Area1/Shopping & Workshop>。創業から現在まで60年の間にオーディオテクニカ社から発表されてきたヘッドホンやマイクロホンなど過去製品の展示から、60周年記念モデルを試聴することができるBA-TSU ART GALLERY<Area2/Deep Listening>。そして畳や箪笥など和の伝統を尊重しながら、オーディオ機器とのフュージョンを志したSTUMP BASE<Area3/Gallery>。
メッセージに賛同した多くのクリエイターや出展者の協力もあり、どの会場も満員状態。40年ぶりにワイヤレスで復刻した話題の〈サウンドバーガー〉を会場で先行販売するというニュースが流れたことから、開場前から行列ができた。
MARKET:アナログの魅力を伝えるために、青山一帯でイベントを開催
〈ファーマーズマーケット〉とのコラボレーションとなる<Area1/Shopping & Workshop>。まずは、LA発のインターネットラジオ局の日本ブランチ、dublab.jpがキュレーションした「ミュージシャンやDJのレコード棚が見える、買える、レコードマーケット」。荒内佑や角銅真実、鈴木惣一朗といったミュージシャンから、松浦俊夫やDJ KENSEIなど錚々たるメンバーが、実際に持っているお気に入りのレコードをセレクト。
気になったレコードは試聴ブースに設置された60周年記念モデル<サウンドバーガー(AT-SB2022)>で試聴可能。〈オーディオテクニカ〉の商品に馴染みの深いファンには最新機能を、そしてレコード初心者には操作方法など。スタッフが親切にレクチャー。
隣にはレコードショップがミニブースを設置。レア盤から手頃なものまで、1000枚ほどの商品が入った棚へ、開場と同時に人だかりができていた。また、DJブースでは会場に居合わせた子供たちへ、プロのDJがスクラッチをレクチャーする体験コーナーも。
同フロア内には、受注生産のオリジナル手編みニットで話題の〈NAOTTERU?〉が、音楽や映画関連のニットを展示。フォークのレジェンドからキング・オブ・ポップ、そして話題沸騰のラッパーまで。カラフルかつポップなニットの数々。これらすべて、実はメンバーのお母さまの手によるもので、ポートレートなら3〜4週間。ただし、金髪&ドレッドのラッパーなど、髪の質感を出すのに大変なものは1カ月ほどかかるという。手作りにこだわりながら、リアルな質感のニットに、通りかかる人たちも足を止めて眺めていた。
また、商品を売る上で最もアナログな手法である実店舗を品川区荏原で構えているリサイクルショップ〈Hand To Mouth〉も出店。ヴィンテージの家具や食器など、貴重なものから、手頃でポップなものまで陳列。
そしてランチタイムのフードコート。茅場町から乗り付けた〈Neki〉のキッチンカーには、フードマーケットで仕入れた野菜や食材から作られた料理、そして厳選されたワインを求める人々の行列ができている。アナログなレコードや音響機器を中心に、さまざまなカルチャーが交差し、賑わっている様子が印象的。
DRINK:老舗とコラボした、音楽仕込みの焼酎「ANALOG SPIRITS」完成!
<Area1/Shopping & Workshop>で、ひときわ目立っていたのが、最高の“音”にこだわる〈オーディオテクニカ〉と、特別な味わいの焼酎を追い求める鹿児島の田苑酒造、そしてJ-WAVEやミュージシャンらとともに創業60周年を記念してつくり上げた音楽仕込み焼酎「ANALOG SPIRITS」のブース。
もともと、田苑酒造の蔵では、焼酎の熟成期間を経て、仕上げの段階で“音楽仕込み”が起用されている。トランスデューサーを通じ、音楽を振動に変え、タンク内にあるアルコールと水の分子へと伝達されることで、味わいが“まろやか”になるという。
通常は「ベートーベン作曲交響曲第6番-田園-」などのクラシックを聴かせている。今回「ANALOG SPIRITS」では、藤井フミヤとNulbarichが特別にセレクトした楽曲を、マイクロホンAT5047、ヘッドホンATH-M50xを使用して新たにスタジオ録音。さらに、〈オーディオテクニカ〉のマイクロホンを使用してレコーディングされた海外アーティストの名曲をプレイリスト化。3つの音楽の方向性から、田苑酒造が香りや味わいなどの酒質をイメージし、新たに3つの焼酎を開発。
まず、赤いラベルの〈ANALOG LOVE〉には、藤井フミヤが特別にレコーディングした名曲の「TRUE LOVE」や「Another Orion」、新曲の「水色と空色」を聴かせ、ファルセットボイスのように甘く華やか、それでいてキレの良い味わいに。
Nulbarich の「STEP IT」と「Spread butter on my bread」を聴かせて醸造したグレーのラベルの〈AUTHENTICITY〉は、ふわりと口の中に広がるフルーティな味わいの奥にハチミツのような奥深い甘い香りが印象的。青いラベルの〈VIBRATIONS〉には、録音に〈オーディオテクニカ〉のマイクロホンが使用された海外アーティストの名曲プレイリストを聴かせ、バニラのような香りに、コクのあるクラシックな味わいに。音楽と酒の良縁を物語るように、開場とともに「ANALOG SPIRITS」の味は集まった人たちを魅了していた。
JAPANESE TRADITION:箪笥にシンセ!? ユーモア溢れる、アナログと和の融合
青山骨董通りにあるギャラリー、STUMP BASEでは音とアートを融合させたサウンド&アートインスタレーションを開催。中でも、モダンな内装のギャラリー内に畳敷きの和室を設置し、そこでお茶会を開催。その名も〈アナログなお茶会〉だ。
置いてある和箪笥を見ると、もともとその形状から“タンス”と呼ばれたモーグ・シンセサイザーにインスパイアされたインスタレーションとして、古民家から発掘された和箪笥にアナログ・シンセサイザーの名機<ROLAND System 100M>が組み込まれている。さらに、畳に座ってみるとシンセから鳴らされたパルス音の振動が。なんと、畳の中にスピーカーが内蔵されている<TTM-V20>というプロダクトだというのだ。そこへ松村宗亮、永江宗杏(道具協力:スペース大原)といった茶人が登場。実際にお茶を点て、茶菓子とともにもてなしてくれる。
また、お茶会の後には、展示されている「簞笥シンセ」を使ってGalcid + Hisashi Saitoがライブ演奏を披露。和とアナログの見事な融合を体感させてくれた。
本作品は、茶会キュレーションを無茶苦茶、ビジュアルはColo Müller、古物の箪笥は循環ワークス、サウンドデザインはWhitelight、プロデュースはepigram inc.というクリエイターによるもの。
MUSIC:〈オーディオテクニカ〉60年の歴史と未来を体験
そして、原宿のBA-TSU ART GALLERY<Area2/Deep Listening>では、60周年記念モデルのヘッドホンATH-W2022やレコード再生用のカートリッジAT-MC2022など、アニバーサリーイヤーのために企画された超限定のハイエンドモデルを手に取って体験できるほか、60年の歴史の中で発表されてきた過去の製品や広告を展示。ショールーム的な存在として、多くのブランドファンが訪れていた。
また、予約制ながら、特別に仕立てられたリスニングルームで、60周年記念モデルのカートリッジAT-MC2022とターンテーブルAT-LP2022の試聴会も開催。オリジナル盤や高音質盤として再発されている名盤レコードが用意され、ハイエンドな音響機器を使って試聴することが可能に。ここで取材班は、近年激レア盤とされている石川さゆり「天城越え」を試聴。
テレビの歌番組でよく聴くことのできる曲だが、ハイエンドな音響では、三味線や和太鼓といった和楽器のほか、意外とファンキーなベースやシンセサイザーなど、思っていたよりも音数が多いことがわかる。そんなバックトラックと、石川氏の熱唱が融合し、揺るぎない名曲になっていることがわかり、まさにディープリスニング体験となった。
もっとアナログになっていく
今回3日間にわたり開催された『Analog Market』。“もっと、アナログになっていく。”という理念のもと、あらゆるジャンルが混在する刺激的なイベントとなった。レコードを中心に、アンティーク、古着、アート、インテリア、観葉植物、オーガニックフードなど、様々な「アナログなもの」とクロスオーバー。その理念を肌で感じられるイベントとなった。
年齢、国籍幅広く、ブランドに共感した来場者が多く訪れた青山の3日間。アナログを軸に活動を広げていく〈オーディオテクニカ〉の今後にも注目していきたい。