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MBSアナウンサー・福島暢啓が、時代錯誤の“アナクロ映像”に迫る

走るノイズ、かすれた音声、手書きのテロップ。まるで昭和や平成初期に作られたような映像が、インターネットを中心に数多く制作されている。こうした作品を“アナクロ映像”と呼ぶのが、MBSのアナウンサー、福島暢啓さんだ。“レトロ”とは何が違うのだろうか。

Text: Neo Iida

昭和?平成?懐かしくも新しい
令和のニュー映像文化

「レトロというのは、現在の視点から“昔を懐かしむ”言葉ですよね。私が気になるのは、その時代の空気感を緻密に再現し、“その中に立っている”ような映像なんです。これを表す言葉はないかと考えて、“時代錯誤=アナクロニズム”から“アナクロ映像”という言葉を思いつきました。若い世代に作り手が多いんですよ」

福島さんは、小さい頃からNHKの教養番組や戦前戦後のアーカイブ映像を観るのが好きだった、生粋のテレビマニア。昨年のステイホーム期間にはSNSで「#ラジオリレー」というバトンを受け取り、昭和風ショートムービーを制作した。

朝の情報番組『THE TIME,』(TBS)でも関西圏の中継を担当し、番組告知動画をディレクション。声色、フレームワークなど、1分46秒に昭和のフィルム感が詰め込まれた秀作だ。

「番組を盛り上げるため、会社から“何かないか”と言われて、東宝映画のサラリーマン映画のイメージで制作しました。昭和30年代当時にもあった建物をバックに撮影し、文字は手書きに。番組MCの安住(紳一郎)アナウンサーには“好きだねえ”と言われました(笑)」

再現度に厳しい福島さんが注目するクリエイターが、映像制作集団フィルムエストTVだ。
近年の出来事を昔のテレビ番組のように仕上げるのが得意で、昨年YouTubeで公開された「テレワーク」のCM風動画は、もし90年代にコロナ禍が来ていたら……という異なる世界線を彷彿とさせた。福島さんも交流があり、イベントで一緒に動画を制作したことも。

「コラボした“タピ抜き”の動画は昭和50年代を想定し、演者も当時の古い関西弁で話しています。“わやですわ”なんて、今では使いません(笑)。

映像の作り込みも興味深くて、ただ古い映像を模すのではなく、“押し入れの奥で眠っていたビデオテープ”を再現している。だからノイズの入り方が作品ごとに違うし、テープを上書き録画した感じまで伝わるんです」

続いて福島さんが衝撃を受けたのは、Twitterで作品を公開する映像アーティスト、葛飾出身さん。2018年に観た、“業務スーパー”の動画で存在を知った。

「古い映像を作るうえで重要なのが、“どう汚すか”なんですが、その手数が多い。フォントの再現力も素晴らしいです。さらに音楽も作れて、60年代のグループサウンズを、80年以降のゲーム音源で再現している。2つの時代が混ざった混沌とした感じも良くて」

アナクロ映像の若きクリエイターは各地にいて、近年増加しているという。その背景を、福島さんはこう解釈する。

「数年前からラジオやレモンサワー、ネオンサインのような昭和の文化が見直されていました。さらに改元で平成の30年間が一つにまとまり、大正ロマン、昭和レトロ、平成トレンディのように時代を形容しやすくなった。そこにコロナ禍が来て、映像を作るにも観賞するにも、十分な時間ができたんだと思います。
若い世代は当時を知らない分、過去を俯瞰できる。インターネットで過去の映像に触れる機会も多いですし、より精度の高いアナクロ映像を作ることができるんです」

レトロとは一線を画す、アナクロ映像の世界。令和を賑わせたZoomの分割画面も、いつかこの時代を象徴する映像の一つとして再現されるかもしれない。