草彅洋平さん率いる“AMAMI”と『BRUTUS』編集長・田島朗が語る、初のサウナ特集の舞台裏〜前編〜

今回の海外取材は何日間行ったんでしたっけ？

約2週間で30施設です。

「サ旅」だと、普通に行く量だと思います。でも、海外の施設は驚くほど規模が大きい！

一日の最大はAufguss WM (アウフグース世界大会)の決勝戦で受けた16セット、16アウフグース。それ以外でも各施設十数セットを30カ所も回ったわけです。

修行だね（笑）。

サウナ特集号を作るきっかけは、4月に田島さんとご飯を食べたときでしたよね。

草彅さんとは10年以上の仲で、僕が4月に本誌編集長になったタイミングで、昔から繋がっている人と何か面白いことをやろうということになり、その後、編集部にも来てもらいましたね。

「CULTURE SAUNA TEAM “AMAMI”」のメンバー8人くらいと一緒に。みんな自然に集まっちゃうんですよ（笑）。

部内の企画会議でも海外サウナ取材が面白そうってことで、まもなく決断しました。

今回の旅で、3人それぞれに一番良かったサウナはどこですか？

満場一致だったのは〈サウナキュラ〉です。営業期間が5月〜9月の毎週土曜日、夕方4時間しか営業していない。（写真を見ての通り）ほぼRPGの世界観。すごい場所でした。

湖ドボンもできます。ここにあるのは「サウナの王様」とも称されるスモークサウナだけで、朝から6時間くらいかけて煙で燻してサウナストーンをカンカンに温めるんです。その煙には有毒な物質が含まれているので一酸化炭素中毒になる危険があるんですが、まさかの煙突がない。そこで「ハカロウリュウ」という技法で空気を入れ替えて、サウナに入れる環境をつくります。なので施設のオープンが夕方なんです。

ストーブの石は800kgと聞きました。サウナストーンを数カ月ごとに入れ替えるそうです。石が消耗品とは、驚きました。

とにかく一日中、ウイスキーのようなスモーク香が身体とか髪の毛から取れないんですよ。

会場には湖で採れたピート（泥状の炭で、石炭の一種。フィンランドでは泥パックとして使われる）を25ユーロで売っているおじさんがいて、それを全身に塗ってくれるんです。サウナに入り、最後は湖で泥を落とす。するとおじさんはまた泥を回収して、それを売るという。

すごい循環型のビジネスですよね（笑）。

こういう裏話いいですね。

僕らが行った日はその年の営業最終日だったので、フィンランド中のサウナーたちが集まってきていましたよ。

泊まりに来ているんですか？

フィンランドには、サマーハウスと言って夏だけ過ごす別荘があって、その別荘地帯がユバスキュラにあるんです。

タンペレから車で1時間半と、かなり遠いんですが、旅行者は泊まる施設がないんです。交通の便も悪いので、車で行くしかありません。

でも、夢のような世界でした。サ旅でフィンランドに行くなら、絶対に行った方がいいです。

アウフグース世界大会は、どうだったんですか？噂だと演劇に似ているそうですね。

まさにショー。装置も衣装もパフォーマンスも、物語をひたすら見るような感じで、本当に圧倒されました。僕らは決勝戦の日に16試合見ました。45分に1回、15分間の演技があるんですけど、朝9時から夜9時まで、ずっとアウフグースを受けるというハードさ。サウナ→水で冷やす→少し水分補給→並ぶ、というサイクルでした。しかも全裸で16回繰り返す（笑）。お昼を食べる時間もないし、謎すぎましたね。

審査員の人もサウナ室の中に入るわけですよね？

サウナ室内で審査しますね。審査員は4名。おそらく審査員4名と84ken（橋本）と俺だけが、全試合見てたね。

僕は3試合だけ見逃したんですよ。日本から仕事の電話が入っちゃって、対応していたらチャンピオンになった人を見逃すという……。メチャクチャ頑張って朝から耐えていたのに！

採点はフィギュアスケートみたいな方法で？

ほぼ同じですね。15分間1本勝負で、時間通りじゃないと減点される。その15分の世界観というのが、また非常に難しい。良いと思ったのは得点が低くて、「これ最悪」と思ったのがなぜか優勝したりして。

タオルを落としたり、水をこぼしたりするのは減点らしいです。キューゲル（氷の玉）を1回できれいに割れなくても減点とか。採点基準はかなり細かいですね。

印象的だったのは、ドイツから参加したアフガニスタン出身のサウナマスター。まず子供たちが凧を上げる動画から始まる。すると一転、アフガニスタン紛争の銃撃や爆撃の動画が流れる。続いてナレーションで「子供たちが大好きだった凧揚げは、戦争のせいでできなくなった」と。そこで裸のサウナマスターが登場。凧を持って客席を一周しながら走っていくの。「アルカイダのせいで凧が上げられない。どうなってるんだ！」と怒りの表情で、タオルを回し始めるんですよ（笑）。俺たちも、タオルが凧に見えてきて、気づいたらいつの間にか汗ではなく涙が頬を流れているという……。副編集長の中西剛さんにこのエピソードを伝えたけど、何の返信も返ってこなかった。

（笑）

そんな、訳の分からないサウナが展開されているんですよ。面白いですよね。もちろん、きちんと熱波を送れているかも審査対象ではありますが。

出場チームの演者の多くは、元役者やダンサーと聞いています。しかも、映像班や美術担当もついている。一方、日本から出場した「鮭＆鱸」コンビ（鈴木陸＆鮭山未菜美ペア）なんかは、すべて自作で決勝まで行っている。日本のサウナブームがあって、世界の舞台に日本人が出ていって、世界で扇いでいる逞しさに感動しました。

拍手も大きかったもんね。

でも、サウナマスターだけでは食べていけないのは日本と同じで、みんな副業としてやっているみたいね。優勝賞金も1,000ユーロ（約14万円）。大会規模と比較して、思ったより少ない気がしました。でもスター選手は、演目が終わったあとに長蛇の列なんですよ。サウナーたちが「最高だったよ！」と握手でコミュニケーションをとっていて、非常に関係性が美しかった。ずっとサウナ室で泣いてたなぁ。感動したよ、ほんとに。