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和歌山〈コチレ〉目の前の顧客から市場は広がる。地方セレクトショップならではの経営哲学

地方のセレクトショップがますます面白い。ブルータスが主観で絞り込んだ、とっておきのお店をご紹介します!

photo: Masuhiro Machida / edit: Naoko Sasaki

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目の前の顧客から市場は広がる。
地方店ならではの経営哲学。

和歌山駅から特急で約1時間半、熊野古道の分岐点、リゾート白浜と隣接する田辺市は森林面積が9割という自然あふれる田舎町。のどかな商店街にある〈コチレ〉は、うっかり通り過ぎてしまいそうな小さな店だが、コモリ、ダイワピア39など通好みのセレクトに驚かされる。

和歌山〈コチレ〉店内
一番人気はコモリ。デニムジャケットをディスプレイの中心に。

土地柄に合わせたアウトドアブランドも扱う。オープンは2009年。「白浜アドベンチャーワールドで働いていた濱口(陽平)が、大阪で古着バイヤーをしていた僕に“田舎でお店をやってみたい”と持ちかけたのが始まり。当時はまだ業界的にECにネガティブな風潮があったけれど、都会から離れたこの場所でこそ将来性があると考えていち早く取り入れた」と語る代表の福田聖さん。

ECでの幅広い仕入れと売り上げを担保に自由な店舗を作れると考えたのだ。「最初は都市にあるようなセレクトショップを目指していたが、続けるうちにどんどん地元にシフトしてきた。一番大事にしているのは人間関係。

僕らが本当に好きな服を地元のお客さんに紹介して喜んでもらう。目の前のお客さんに気に入ってもらえる服を仕入れたら、日本中探せばその先に10人ぐらいは同じ好みの人がいるはず、という考え方。

見えないマーケットに向けて売ることを悩んでセレクトしなくていい。シンプルなんです」。こうして12年、売り上げは順調に伸び続け、社員も3人から12人に増えた。

「これからはファッションを通じてこの町に恩返しをしていきたい」と、地元の文化を外に向けて発信する取り組みにも力を入れ始めた。南紀の農家の方に新品のデニムを提供し1年穿き込んだダメージデニムとともに農産物を紹介したり、子供たちのヨット教室にヘリーハンセンのライフジャケットを提供したり。毎年開いている周年パーティはお客さんであふれ返るという。

「もはや店は僕らのものじゃなくて、町の人たちのものになったんだなと嬉しく感じています」

和歌山〈コチレ〉入口
古い倉庫を改装したショップの前で、デニムを穿き古した南紀の農家さんたちと。右から、ミカン農家の野久保さん、梅農家の尾崎さん、バイヤーの張磨さん、代表の福田さん、梅農家の那須さん、バイヤーの濱口さん。

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