歳月に耐えた建物に、
時代を超えるものを選び抜いた空間。
文化庁の登録有形文化財に指定されている築100年を超えるレンガの物件は、もとは繊維の町・桐生ならではといえるレースの工場だった。店舗に足を踏み入れると、静謐で、時間を巻き戻されたような感覚も覚えるが、それもそのはず、床材、ダイヤ硝子の窓、時計や照明、什器やコンセントに至るまで、大正時代にできたこの建物に合わせて時間をかけて吟味し手を入れていったという。
大手セレクトショップのバイヤーだった山越弘世さんが、地元である桐生にセレクトショップ〈ベルーリア〉を構えたのは20年前。その後は高崎、鎌倉にも出店を叶えたが、次の新店を考えるに際しては、自らの運転で全国津々浦々の名のあるセレクトショップを行脚し、自分の中で理想の店を思い描いていった。
すると“灯台下暗し”のごとく、地元・桐生でこの物件に出会った。
セレクトショップ時代にトレンドの変遷やファッションの消費スピードに疲弊していた山越さんは、日本のアクセサリーブランド〈市松〉との出会いを通じて価値観が変わり、時代に流されないセレクトを心がけ、セールをしない姿勢を20年間続けてきたという。
この新店舗では、〈市松〉の中でも「一点もの」と呼ばれる稀少で作家性の高い商品を中心に、レザーと真鍮によるN25のがま口ウォレット、フランスのヴィンテージアイウェアなどのタイムレスな小物を取り揃えながら、コモリのアーカイブ生地で特注したシャツ、新進のヨーコサカモトなど、この空間にふさわしいと考える洋服も厳選して並べている。
店名は「日美日美」と書いて「ヒミ」と読むが、「美しい日常を積み重ねる」という意味と、自らの20年という歳月を託した。100年の時を超えて再び人々の呼吸が戻ってきたこの建物では、時代に流されない逸品たちが新たな持ち主との出会いを待っているかのようだ。