2022年に誕生した〈ア リトル プレイス〉は、それぞれ京都とフランスで美に触れてきた2人が店主。成井大甫さんは京都を拠点に、国内はもとより海外でも活躍する庭師。石造美術品やアンティークを蒐集(しゅうしゅう)する骨董コレクターでもある。
もう一人の店主、宇佐見紀子さんは30年にわたってパリを拠点に、世界各国の衣食住すべてにわたる買い付けに携わってきた経歴の持ち主。苧麻(ちょま)と呼ばれる着物地を、フランスのヴィンテージ服のシルエットで仕立てたコレクション〈紀[KI]−SIÈCLE〉を主宰する。
京都とパリ、それぞれ伝統を大切に受け継ぐ町で培われた美意識を、披露する場として選んだのは、大正時代に建てられた京都の町家だ。それは成井さんが敬愛する華道家、去風流七世西川一草亭と、その弟である画家・津田青楓の生家でもあり、茶道具を作る千家十職の職家の家でもある。こぢんまりとしながらも上品な佇まいを生かし、手を加えすぎることなくサロンとしての要素を持つギャラリーに仕立てた。
成井さんがコレクションするように集めた古いものは、紀元前のペルシャの壺や発掘されたローマングラスから、高麗の馬上杯、明治時代の漆桶や酒器などまで、洋の東西も時代も問わず。植物と合わせ、互いを引き立てる花器も、もちろんある。
「名前のある作り手による、すでに価値があるものには興味がありません。僕の琴線に触れるのは、人の目や手を経て大切にされ続けることで輝きを増してきたもの。花器に見立てる提案や、古物の美しさにまだ気がついていない若い世代にも伝える場になれば」と成井さん。
一方で宇佐見さんが手がけるのは、一着に2つの国と時代が凝縮する洋服ブランド。100年前に日本で作られた手織りの上布を使い、現代の縫製でフランスのヴィンテージの型に仕立てるのだ。
「数年前に帰国して、京都の骨董市に通って出会ったのが100年も前に織られた苧麻の絣(かすり)。丁寧に、手間暇かけて織られた自然布は、なんて美しく繊細なんだろうと。新たに作ることができなくて、幻となりつつある布を、次の100年にも受け継ぎたくてブランドを立ち上げました」と宇佐見さん。
2人のセンスが融合する空間には、〈メゾンエルメス〉にて活躍してきたロラン・ステファンさんが手がける2つの皮革ブランド〈ACCALMIE by Laurent STEPHAN〉〈GEMME ACCALMIE〉のバッグやブレスレットも加わり、さらなる美に触れることができる。
静謐(せいひつ)な町家で繰り広げられる美の世界。それは新たな物語を紡ぎ、次の100年へ続いていくに違いない。
SELLING POINTS
● 時代や国が縦横無尽に入り混じるミックス感。
● 成井さん自らがプロデュースした町家と庭の美しさ。
● 華道家や茶人によるイベントなどサロン的要素も。