伊藤亜和(文筆家)
なら全部諦めな!
『リトル・マーメイド』
パパのところへ戻って二度と海の上には行かなきゃいい
'23米/監督:ロブ・マーシャル
実写版『リトル・マーメイド』で、アリエルが父の庇護から抜け出し人間になるため、海の魔女と取引をするシーンでの魔女の台詞(せりふ)。私自身も父の束縛から自由になるために大喧嘩の末絶縁した過去があり、自由を求めて危険を冒す姿には共感せざるを得ません。あの日の自分に迫られているような気がして、体が熱くなります。
稲葉俊郎(医師、医学博士)
縦糸が芸術だとすると横糸が礼性だ。
『原郷の森』
その二つの交点に霊性が宿る。
横尾忠則著/文藝春秋
横尾忠則さんのアトリエで三島由紀夫とのエピソードを聞いていた時。若かりし横尾さんは三島由紀夫からこういう言葉を渡されたと話を聞き、ガーンと衝撃を受けました。さらにこう続きました。「地上的な作品を作りたければ無礼でいいだろうが、天に評価される作品を創造したければそこに霊性が宿らなければならない」と。
世良田波波(漫画家)
「成長しない」って
川本真琴「愛の才能」(1996年)
約束じゃん
*JASRAC申請中
みんな成長してしまう。ふざけ合っていた友達も、物語の主人公たちも。10代の頃、川本真琴の「愛の才能」を聴いた。それから十数年も経ったのに私はまだ愛わかんないとか言っている。この曲には成長しないかわいさが溢れている。私も迷わずそんな漫画を描きたい。成長しなくていいよ、かわいいから。そんな人生を描きたい。
馬場正道(DJ)
反対学を学べ
『漢方医学』
渡辺賢治著/講談社選書メチエ
物事の本質を見極めるには反対を見ないと全体像がつかめない、と本書の中では語られる。西洋医学を学ぶからこそ、そこに足りないもの、東洋医学で補うべきものが見えてくる。それはどんなことに対しても言えることで、反対を学ぶことにより視野が広がる面白さを知った。否定する前にまずは知ろうと思うようになりました。
冷水希三子(料理家、フードコーディネーター)
弁当箱には、
『土を喰う日々−わが精進十二ヵ月−』
味噌と塩とめしが入っているだけだった。
水上勉著/新潮文庫
塩がなければ料理にならない。米はただ食べられるだけではなく、稲藁(いねわら)として人間の生活の衣食住を担ってくれている。そんな思いをこの一文が表していると思えます。そして、そうした豊かさを支えるのは弁当箱なんだなぁ……とも。それこそが日本人が細胞の記憶に秘めている味なのではないかと思わせてくれる言葉です。
三浦崇宏(PR、クリエイティブディレクター)
悲観は気分、楽観は意志。
博報堂入社時、当時の役員が挨拶でアランの『幸福論』を引用した言葉
人はそんなに強くないから、ちょっと嫌なことがあるとネガティブになる。でもその事実・現象をポジティブに受け止めることで、その後の動き方は変わる。この言葉で、志望のクリエイティブ部門に配属されなくても前向きでいられたんだよな。以来、人生のいざという時に振りかざすナイフのように胸の奥にしまって生きてきた。