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「劇」映画の道を切り拓いた、ある女性監督。『映画はアリスから始まった』が公開

映画史に埋もれたアリス・ギイを追ったドキュメンタリー『映画はアリスから始まった』7月22日、アップリンク吉祥寺ほかで全国公開予定。

text: Mikado Koyanagi

それはアリス・ギイから始まった。確かに、彼女がフランスのみならず、世界初の女性映画監督であるということは言を俟たなかったが、物語性を伴った最初の「劇」映画(『キャベツ畑の妖精』)を撮ったのもアリス・ギイだったということが、近年様々なリサーチにより定説となりつつある。

そして、アリスはその後アメリカに渡り、監督のみならず、夫とともに映画製作会社を立ち上げ、この業界で初の女性経営者にもなっているのだ。ところが、これほどの偉業を成し遂げてきたアリスのことを、今の映画界で知る者は少ない。その背景には、これまでの映画史において女性監督という存在がいかに無視されてきたかという悲惨な現実がある。

今夏公開されるドキュメンタリー『映画はアリスから始まった』は、知られざるアリスの波乱に満ちた人生だけでなく、女性の置かれてきたそうした現実も暴き出すのだ。それからも女性監督がいなかったわけではなかったが、社会における女性の立場を女性自身が批評的に描いたフェミニズム映画の先駆的な作品が、1970年にアメリカで突如登場する。それが、現在公開中のバーバラ・ローデンの『WANDA/ワンダ』だ。

『映画はアリスから始まった』
世界初の女性映画監督アリス・ギイの知られざる人生を追ったドキュメンタリー。監督はパメラ・B・グリーン。ナレーターにジョディ・フォスター。7月22日、アップリンク吉祥寺ほかで全国公開予定。
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バーバラは、夫であるエリア・カザンの作品などで女優として活躍した後、最初で最後の監督作となる『ワンダ』を自作自演で撮る。自身の出自を重ね合わせたワンダという主人公の女性が、家に自分の居場所が見つけられず、着の身着のまま放浪の旅に出るが、途中で出会ったある男のなすがまま犯罪に巻き込まれていくさまを描いた映画だ。

常に受動的で主体性のないワンダは、一見フェミニズムとは対極のキャラクターに見えるが、この徹底的に鈍重な人物造形にこそ、批評的な視座へと反転させる力があり、バーバラの監督としての非凡さが表れている。

描かれたのは
女性たちの強さ

それに近い手法は、その5年後に撮られた、これも本邦初公開の傑作、シャンタル・アケルマンの『ジャンヌ・ディエルマン ブリュッセル1080、コメルス河畔通り23番地』でも見られる。デルフィーヌ・セイリグ演じる主婦が、日々の単調な家事を淡々とこなすさまを3時間超にわたって捉え続けることによって、これまで女性に一方的に押しつけられてきた家事がいかに労役であり、女性の精神を蝕むものであるかを告発するのだ。

フェミニズム映画史において重要なこの2本の作品は、どちらも受動的な主人公の女性が、最後の最後に、ある「抵抗」を示すのだが、この秋リバイバル公開されるアニエス・ヴァルダの『冬の旅(英語題はヴァガボンド)』の、サンドリーヌ・ボネール演じる、荒涼とした冬の南仏を放浪する少女モナは、いかに男たちから金銭的・性的に搾取されても、精神的に彼らに屈服することのない孤高の存在だ。

そして、その気高くも美しい魂は、21世紀に入り、ケリー・ライカートの『ウェンディ&ルーシー』のウェンディや、クロエ・ジャオの『ノマドランド』のファーンへと受け継がれていくことになるだろう。

名だたる女性監督たちが
手がけた重要作も続々公開!

『WANDA/ワンダ』’70
バーバラ・ローデン

1970年にアメリカで製作されたバーバラ・ローデンの自作自演によるインディー映画。現在、ケリー・ライカートなど数多くの女性映画監督たちに支持されている。シアター・イメージフォーラムで公開中。

『ジャンヌ・ディエルマン ブリュッセル1080、コメルス湖畔通り23番地』’75
シャンタル・アケルマン

この春、東京はじめ各都市で大旋風を巻き起こしたシャンタル・アケルマン映画祭。中でもデルフィーヌ・セイリグ主演のこの映画は、3時間20分の長尺ながら記録的大ヒットとなった。引き続き全国で公開中。

『冬の旅』’85
アニエス・ヴァルダ

アリス・ギイのあと現代につながる女性監督映画の道筋を作ったアニエス・ヴァルダの最高傑作。この映画がなければ『ノマドランド』も生まれていない。10月下旬、シアター・イメージフォーラムほかで公開予定。