発酵新世代の2人が語る、未来の拓きかた
岡住
僕、(髙橋)泰さんのことをすごく尊敬してるんです。そもそも味噌、醤油の世界で泰さんみたいに海外に打って出て勝負している人はほかにいないですよね。僕が感銘を受けたのは、日本が誇ってきた発酵技術や文化が、いま世界中の食通から注目されるコペンハーゲンのレストラン〈ノーマ〉にその位置を奪われつつあるのを、取り戻そうと闘ってるんだとおっしゃっていたこと。めちゃくちゃかっこいいなと思いました。僕はそんなつもりで酒を造ってなかったから。
でも日本酒も海外で造られるようになってきて、世界各地で年間10軒くらいの勢いでブルワリーが増え始めています。日本では新規参入できないし、蔵の数は減ってきているなかで、どこかで世界と日本の酒蔵の数って逆転していくと思うんです。いま行動しないと、200年後、300年後の日本酒の未来ってやばいというのは、泰さんから学んだことですね。だから泰さんが、こういう(一緒にどぶろくを造る)話をもってきてくれたのは単純にうれしいです。
髙橋
それ、初めて聞いたけど(笑)。僕が〈新政酒造〉にお酒のことを勉強しに行ったりしていたときに、岡住くんが〈新政〉で働いていて、その頃からの知り合いだけど、いつも技術的な話ばかりで、そういう話をしたことがなかったからびっくりしました。
僕らの業界って伝統的なやり方が「最上」という世界なんだけど、それだと自滅の道しかないと思うんです。僕は本当は家業を継ぎたくなかったんですが、ほかに同じような人を生んではいけないと思って。業界の構造を改革しないと、その先の世界がないという思いでやってます。
世界の場できちんと伝えること
岡住
伝統の世界って国内が一番固定観念が強いんですよね。そこで勝負しつつ、海外にも広めつつというのは、どちらを優先すればいいのか、僕も悩んでいます。市場として国内を大事にしたいし、国内の人に届けたいという思いもあるけれど、国内の固定観念を変えるためには、海外で広めて……。
髙橋
海外で評価を得て、逆輸入的に広めたほうが早いですよね。
岡住
そうなんですよ。海外の発酵クラスターってこの10年くらいですごい育ってきていて、自分たちで麹や味噌や酒を造る人たちが増えてきて、影響力がどんどん高まってますよね。そんななか、日本の発酵技術とはこういうもので、こういう文化があるんだよということを、きちんと世界の場で英語で伝えていきたいというのが、最近考えていることです。それが日本の文化を守っていくことなのかなって。〈ノーマ〉が出している発酵の本をありがたがって買っている日本人って……。僕も買いましたけど(笑)、これって由々しき事態だと思うんです。
日本のローカルから変革を起こす
髙橋
マンガ・アニメってコミックマーケットがあったから広がったところがあると思うんです。単独だとその世界を切り拓いていくのは難しくて、突出したところが複数ないとだめ。そういう仲間を意図的につくっていく、技術を伝えていくというフェーズに入っていると思っています。
秋田のローカルって中央から見ればマイノリティじゃないですか。だけど海援隊みたいなものをつくって、海外の考えの近い人たちと組んでやっていけば中央政府は変えられるかもしれない。変革を起こすメソッドはそこにあると思っています。それができれば、日本のローカルから変革ができる。そうでないと、秋田のような雪国で生き残っていけないと思うんです。そのときに、このエリアにたまたま同時代に生きて考えが近い人たちがいるという幸運を生かさないとなと思っていて。
岡住
まさに、この1年くらいで、〈新政〉に行って〈ヤマモ〉に行ってうちに来るというバーテンダーや料理人、経営者が増えていて、そういう動きがあるのは面白いですよね。一緒に組んで協力できることはしつつ、世界に発信していくということの、いまがスタート段階。これからもっと面白いことができればいいですね。