止められない、止まらない
愛♡大暴走歌謡
「純愛、妄想愛、禁断の恋。トレンディなオフィスラブに母の愛。歌詞だけ読めば重すぎたり暴走してたりもするけれど、昭和なメロディに乗せて歌われると、納得、いえ、共感さえしてしまいます」と愛が暴走している歌謡曲を語る昭和歌謡ラバー・町あかりさん。
「三味線師に惚れちゃった女性の演歌は、推しのバンドマンに夢中な現代女子の共感を呼びそうですし、“ずっとくっついていたいから、たばこも吸わないで”という濃密な歌詞に自分たちを重ねるカップルは、どの時代にもいるでしょう。70年代までは“叱られても好き”と尽くす系が主流でしたが、80年代は“私を自由にさせて”という解放的暴走が出現。暴走する愛にも世相が反映されてます」
さらにそういったオトナな歌詞を、小学生も歌番組を通じて覚え口ずさんでいたのが昭和の日常。
「アニメ『ちびまる子ちゃん』に、まる子とお父さんがお風呂で殿さまキングスの『なみだの操』を歌う場面があって、歌詞をわかってるとジワジワ可笑しい。昭和歌謡はみんなが歌うことを前提に作られていましたが、その大衆性と暴走歌詞のギャップが面白いんです」
「なみだの操」殿さまキングス
「10代では表現し切れない大人の恋の暴走っぷりが素敵。ちびまる子ちゃんも歌う国民的歌謡曲から滲み出るのは、“お別れするより死にたいわ”という重すぎる愛と、それをおじさんが女性言葉で歌うおかしみ。“こんなふうに愛されたい”という男性の幻想かもしれないですね!」。
作詞:千家和也/作曲:彩木雅夫/編曲:藤田はじめ。1973年。
「三味線師ロンリー・ブルー」谷口美千代
「売れない三味線師に恋した女の子の“彼の良さをわかっているのは私だけなの!”という妄想が暴走。切ない物語が1番2番3番と展開します。キメの“フォーリンラブ”を、こぶしコロコロで“フォウウォウウォウウォウリーーーンラーーーブ”と歌うのが、私の推し」。
作詞:ちあき哲也/作曲:杉本眞人。1981年。
「岸壁の母」菊池章子
「“母は来ました今日も来た”で始まる戦後の流行歌。実話が基になっています。シベリアに抑留された息子が引き揚げ船で帰ってくるのを待つ母の愛が尊い。途中で切々と語る台詞———港の名前は舞鶴なのに何故飛んで来てはくれぬのじゃ———も聴きどころ。泣けちゃいます」。
作詞:藤田まさと/作曲:平川浪竜/台詞:室町京之介。1954年。
「愛で殺したい」サーカス
「“はなれないで 躰をはなさないで”“嘘つく口も好きなの”と暴走歌詞の乱れ打ち。でも、恋愛中のカップルなら共感できるのかな。なかにし礼先生による赤面ものの情熱的な訳詞を、日本が誇る男女コーラスグループが品良く歌うところも素敵なのです」。
作曲:ミッシェル・フュガン/作詞:ピエール・エラノ/訳詞:なかにし礼。1978年。
「パパはもうれつ」しのづかまゆみ
「帰りが遅い娘を家の門のそばで待つパパ、一人歩きを禁じるパパ。愛ゆえに束縛がすぎる父親の姿を、娘目線で歌った曲。ちょっと危うい過激さですが、最後は“だけどもあなたの愛情は誰よりも大きいわ”(パパは)“私の恋人”“私の神様”と娘も暴走? 娘が親の愛を感じてる点にぐっときます」。
作詞:阿久悠/作曲:中村泰士。1974年。
「丸の内ストーリー」畑中葉子、ビートたけし
「“乱れた口紅は キャリアでかくすのよ”という歌詞が80年代なオフィスラブの曲。合間に入る、課長役のたけしさんとOL役の畑中さんのコントがめちゃくちゃ面白いんです。暴走してはいますが今聴くと生々しさがなくてカラッと楽しめる。これ知ってる?と自慢したくなる、ナウな一曲です」。
作詞:とべあきよ/作曲:古田喜昭。1982年。
「熱帯魚」岩崎宏美
「阿久悠先生が岩崎宏美さんに書いた歌詞は、愛に一直線な乙女の心情がよく表れています。ピュアなのに重厚感もあって本当に素晴らしい。ですが、“ああ今夜はもう帰りません私 叱られてもいい なじられてもいい”と歌う18、19歳のヒロリンにはさすがにドキドキしました。愛暴走の名曲です」。
作詞:阿久悠/作曲:川口真。1977年。
「東京娘」桜たまこ
「“お・じ・さん♡”で始まる46年前の曲。“おじさん 好きならば 夢の中 今”って猛烈に可愛いうえ、ドドンパの明るい曲調も相まってスルッと聴けてしまうのですが、いやいや、おじさんって誰⁉ でも、2人の関係性をボカした歌詞が自由な想像を生み、時代を超えた共感を呼ぶんですよね」。
作詞:石坂まさを/作曲:杉本眞人。1976年。
「麗華の夢」ジュディ・オング
「“麗華、麗華、華麗な麗華”という呪文のようなフレーズが耳に残ります。『魅せられて』(1979年)の翌年に、同じ阿木燿子&筒美京平コンビが作った曲。主人公の麗華が言い放つ“満たされると欠けてくるの”“どうぞ 私を自由にさせて”という歌詞には、愛に正直な自立した女性像を感じます」。
作詞:阿木燿子/作曲:筒美京平。1980年。