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冬の北海道・阿寒湖で、新感覚のスキー“BCクロカン”の面白さにハマる

3月下旬までスノーアクティビティが楽しめる北海道。中でも阿寒湖は、冬には全面凍結する湖とそれを取り囲む豊かな森、そして雄大な山々を一度に楽しめる贅沢なエリアだ。そんな阿寒湖で近年人気が高まっているのが、“BCクロカンというスキー。大自然の中に手軽に入っていける注目のアクティビティを体験してみた。

photo: Taiga Kimura / text: Yuriko Kobayashi / cooperation: GOLDWIN(Fischer)

森と山に抱かれた阿寒湖へ

国設阿寒湖畔スキー場から見下ろす阿寒湖周辺。白く広がる部分が凍結した阿寒湖。右手にあるのが雄阿寒岳。周囲には広大な森が広がる。

スキーやスノーボードを愛する人にとって、冬は楽しいシーズン。スノーアクティビティとは無縁の人生を送ってきた者(筆者です)から見ると、寒い季節を満喫しているスノーラバーたちがすごく羨ましい……。

ある程度の年齢になると、スキーやスノーボードデビューする機会はなかなかなくて、重い腰が上がらないという人も多いかもしれない。でも、そんな人に大朗報!まったくの初心者でも気軽かつ安全にスノーアクティビティを楽しめる場所があるという。

やってきたのは北海道東部、釧路市北部の位置する阿寒湖。全域が阿寒摩周国立公園に含まれているエリアで、日本では数少ない“マリモ”の生息地としても知られている。

阿寒湖は世界で唯一、大型球状マリモの群生地がある。マリモが丸く大きく育つには風や波の力、湖底の地形や水分中のミネラル分など、様々な要素が必要だと言われているが、阿寒湖は奇跡的にその条件を満たしているそう。

阿寒湖の周囲にはアカエゾマツなどの針葉樹と、ミズナラなどの広葉樹が混在する豊かな森が広がり、それを見守るように雌阿寒岳と雄阿寒岳、2つの火山がそびえる。夏には湖畔で清々しい時間を過ごせるとあって道内でも人気の観光地だが、冬にはまた違った魅力がある。

冬、氷点下20度以下まで気温が冷え込む阿寒湖は例年12月頃には全面凍結する。広大な湖は絶好の遊び場となって、スノーシュートレッキングやスノーモービルライド、ワカサギ釣りなど、様々な遊びができる。

そんな中、近年は凍った湖の上をのんびり歩く“BCクロカン”なるスキーアクティビティの人気が高まっているとか。斜面を滑るのはちょっと怖いけど、フラットな湖面を歩くだけならできるかも⁉︎食わず嫌いのスキー恐怖症を克服すべく、勇んで極寒の阿寒湖にやってきたのだった。

“BCクロカン”とは、なんぞや?

今回参加したのは、阿寒湖周辺のアウトドアガイドを行う〈TSURUGA ADVENTURE BASE SIRI〉主催のBCクロカンツアー。〈FISCHER〉の板やブーツ、ストックなどの道具はすべてレンタル可能ということで、早速試着してみることに。

ん?なんだか想像していたスキーと違うぞ……。

スキーといえば、まず思い浮かぶのはガンダムのようなごっついブーツ。でも、目の前に出されたブーツはどちらかというと登山靴のような雰囲気で、履いた感じも全く窮屈さがないし、何より軽くて柔らかくて歩きやすい!板もこれまた軽くて、ほっそりとシャープなフォルムだ。これらは北欧のスカンジナビア地方で生まれたクロスカントリースキーだ。

「クロスカントリー(以下、クロカン)は、ゲレンデなどを滑るアルペンスキーとはちょっと違うんです」とガイドさん。

ざっくり“歩くスキー”と聞いてきたが、そもそもどういうスキーなのか。それを教えてもらうことからツアーは始まった。

〈フィッシャー〉のBCクロカン用の板
アルペンスキーに比べて細みなシェイプの板。今回はオーストリアのスキーブランド〈フィッシャー〉のBCクロカン用の板を使用。クロスカントリースキーと似ているが、板の裏に後ろ方向に滑らない加工がしてあり、前には進むが後ろには滑らない仕組みになっている(クロスカントリースキーは後ろにも滑るので、初心者はちょっと歩きにくい)。

BCクロカンの「BC」とは「バックカントリー」のこと、「クロカン」とは「クロスカントリー」のことを指す。

「バックカントリー」と聞くと、ゲレンデ外のワイルドな山々を滑走する玄人っぽいイメージが湧くが、じつは穏やかな森の中を滑ることも、れっきとしたバックカントリーだそう。かたや「クロスカントリー」はアップダウンの少ない雪原を歩いたり走ったり、滑ったりするスキーのこと。

このふたつの魅力のいいとこ取りをしたのが「BCクロカン」だ。バックカントリーは滑る専門なので歩くのは不得意。一方のクロスカントリーは平地志向なので、斜面を滑るのは不得意。その点BCクロカンなら、雪の上を快適に歩きつつ、多少の斜面なら滑って楽しむこともできる。しかも板もブーツも軽くて扱いやすいとあって、手軽にスキーの雰囲気を楽しみたい初心者にはもってこいなのだ。

BCクロカンの板にはクロスカントリースキーにはないエッジが付いているので、ちょっとした斜面なら滑走も可能。アルペンスキーのようにブーツのかかとが固定されていないので滑るには多少練習が必要だが、多少のアップダウンなら転んでも楽しい!

気分はアメンボ⁉︎新感覚のスキー体験

というわけで、早速スキーをはいて阿寒湖の湖上に立ってみた。ブーツのつま先を板にカチッとはめるだけで装着完了。踵は固定されず、フリーだ。あとは歩くだけ……なのだが、なんだかうまく前に進まない。

「足を上に持ち上げないで、スキー板を雪面につけたまま、膝を前に押し出してみてください」とガイドさん。

なるほど、スケートのような感じで片足ずつ体重をかけながら前に押し出すと、スイーっと板が滑っていく。ゲレンデスキーとは違って、かかと部分が固定されていないので、スムーズに足を動かせるのもいい。慣れてくると左右の足をリズムよく動かせるようになって、なんというかこれは……水面を滑るアメンボのような気分だ!

これまで感じたことのない浮遊感と、徒歩では得られないスピード感が気持ちよくて、どんどん前に進みたくなる。気づけば出発時にははるか彼方に見えていた湖の対岸近くまで滑ってきていて、驚いた。

雪の季節を遊び尽くせる最強の相棒

目の前に森が現れたので、てっきり対岸に着いたのかと思ったら、そこは阿寒湖に浮かぶ「ヤイタイ島」という無人島だった。周囲300mほどの小さな島で、龍神を祀る白龍神社の立派な鳥居と祠があった。

ガイドさん曰く、「北海道屈指のパワースポット」だそうで、普段は船でアクセスするしか方法がないとか。自分の足で歩いてお参りできるのは阿寒湖が凍結している冬だけ。こんな特別な体験ができるのもBCクロカンのおかげだ。

凍った阿寒湖の上には、決められた道がない。自分が行きたい場所へ、好きなように滑り歩いていける。登山であれ、スキーであれ、そんなことを許されるのは超玄人だけで、自分が自然の中で、しかも雪のある季節に、自由気ままに遊べる日が来るなんて、夢にも思わなかった。

今回は湖上だったが、BCクロカンと一緒なら雪の森や山の中にも入っていける。もちろん技術や知識は必要になるが、いつかそんなふうに、より深い自然の中に自由に、身軽に入っていきたい。そんな夢がむくむくと膨らんでくるのだった。

BCクロカンを極めれば、こんなスキートリップも夢じゃない⁉︎雪の季節の遊び方は無限に広がっていく……。