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中川諒「赤恥研究所」#10:DJワイヤレス

日常に潜む、赤っ恥な場面をどう切り抜けるか。あなたの人間力が試されるときです。「恥」をポジティブに捉えることができれば、人生を切り拓くキッカケにもなるのです。人生のカンフル剤に、あなたはちゃんと向き合えますか?前回の「未恥との遭遇」はこちら。

text: Ryo Nakagawa / illustration: Kaori Asamiya

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DJワイヤレス

DJワイヤレス

月曜日の憂鬱な朝。他の曜日よりもなぜか混雑する電車に流れ込む人々の顔も、みんなワントーン暗いように見える。こんな重たい空気を一掃するためには、この曲に限る。わたしはいつもと同じようにワイヤレスイヤホンを耳に詰めた。こうして一人の世界に没入するんだ。

「ブンブンブン ブンブンブン インフルエンサー ♪」。これこれ、気分が乗ってきた乗ってきた!テンションをあげていこうとおもむろにスマホの音量をあげた。でも、音量は変わらない。イヤホンが片方聞こえてない?そう思って右のイヤホンをそっと外した。わたしのお気に入りの曲は、イヤホンからではなくスマホからMAX音量で満員電車に直接垂れ流されていた。

気づいたところで、圧倒的に時すでに遅し。焦っている様子をなるべく見せないように、停止ボタンを押したものの、周りの人たちの目線はバッチリわたしにロックオンされている。わたしが突然の大音量車内放送の犯人だということもバレているし、わたしが聴いていた曲もバレている。いま私をまっすぐに見つめている目の前の女性も、音の発信源が分かっていたならイントロクイズのような速さでわたしに教えてほしかった。

そんなときは、いっそのこと気持ちを切り替えよう。今日がわたしのDJデビューだ。皆の憂鬱な月曜日に朝からサプライズを提供してあげたのだ……。それでも耐えられなくなったら、最初からこの駅で降りるつもりでしたという顔でそっと電車を降りて、急いで隣の車両に飛び乗ろう。きっと、あなたが隣の車両でDJをしていたことを知る人は誰もいない。

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