『肛門誤操作』
とある会議室。そう大きくはない会場には、20人ほどの大人が登壇者の話に聞き入っている。参加したのは編集者向けの勉強会。次の本の企画に活かせることはないか、そしてそこに集まる勉強熱心な編集者に自分の顔を売ることも目的のひとつだった。
開始からしばらくたって、嫌な予感がしはじめる。お腹のなかの空気が、お尻から出たがっているのだ。スグに。会議室を出て、その空気を解放してあげられればよいが、いま席を立つわけにもいかない。
そこで僕は登壇者のテンションが一番高くなるタイミングを狙って、おならを解放してあげることを決意した。僕は座っている椅子に母鳥が卵を産み落とすようなイメージで、おならをやさしくそっと置いた。
そんな気持ちとは裏腹に、高い音が会議室を切り裂いた。霊柩車が出棺するときのクラクションを彷彿とさせる伸びのある高い音。みんな聞こえなかったはずはない。でも集まった大人たちは全員聞こえないフリをした。
待て、次の問題は臭いだ。今度は自分のお尻をタッパーの蓋のように椅子に密着させて、臭いが漏れないことを祈るしかできなかった。
おならを我慢することはできない。だからこそ大切な会議がある場合は、先にお手洗いで解放させておきたい。問題は自分の体のコントロールを過信してはいけないということだ。とくに肛門の操作は、年を重ねれば重ねるほど思い通りにはならない。残念ながら。